親愛なるB 様

拝啓、いかがお過ごしでしょうか。
といっても、お顔を拝見したのは、
一度くらいしかないく、
また私の顔を覚えていらっしゃるとも思えず、
どちらも街で出会っても、相手が認識できないと
思いますから、まあ初対面と同じなので、
はじめましてと申し上げるべきかもしれません。


最近、お噂をお聞きしました。
まあ、お元気そうなので、なによりだと、
心から思っています。


そもそも私とあなたとは、敵どうしなのですが、
いまでは、あなたの一時期の惨めな境遇を知り、
いまでは、同情こそすれ、
怒りの気持ちなどまったくありません。


以前、私があなたの英語の文章に対して、
こういう考え方は、どうだろうかと疑問を呈したのですが、
とはいえレヴュー記事のなかの数行でコメントしただけなのですが、
日本語が読めないあなたが、その記事に激怒されて
反論を載せろと、学会の会誌に要求してきました。


数行の日本語のコメントに対して、
数ページの反論です。そもそも、最初の英語の文章の
ありふれたくだらなさを知っていましたから、
反論など読んでいませんが、
そうした異常事態
くりかえしますが、日本語で数行のコメントに対して
日本語が読めないあなたが、数ページに渡る英語の文章を
書いてきた、それを掲載したという学会も学会ですし、
私はそのバカさ加減にあきれ果てて、
退会しました。


実際には、この問題に対して、
私は当時のシェイクスピア学会のT会長(高橋会長ではない)に、
私の文章というよりもコメントをどう思うかと電話で
尋ねたことがあります。


私が予想した答は3つ。


1)君の意見ももっともだと思うが、周りがうるさくて、
私としても、擁護しにくくなっているとういうもの。
もし、この答が帰って来たら、
たぶん、嘘だが、私のようなチンピラに、ここまで気を使ってくれるのなら、
まあ折れてもいいというか、私のほうから謝罪してもいいと思っていた。


2)君の意見には全面的に反対だ。君は間違っている。
というはっきりした回答があった場合、
自分の意見を変えるつもりはないが、
私のようなチンピラに、
明確に反対意見を語ってもらって、それはそれでありがたく
受け取ろうと考えていた。


3)君の意見に全面的に賛成する。一緒に戦おう。
という意見は、全然期待しなかったが、
もし、それこそ嘘でもそう言ってくれるなら、
この人には、死ぬまでついていこうと忠誠を誓おうと
本気で考えていた。


で、帰ってきた答は、上記のどれだと思いますか。
どれでもなく。ただの無言でした。
これにはあきれ果て、怒りを感じてた私は
退会を申し出たのです。


いやあ、この会長の答いかんでは
一生ついていくつもりだったのですが、
いまでは軽蔑心しかいだいていない。


ただそれでも、あるとき、この会長が
学会の金銭を着服したという噂を、私の耳に吹き込んだ
会員がいたとき、
私はその噂を絶対にありえない虚偽として
一笑に付しました。


私も別の学会の会長をしたことがあるけれども、
会長は学会の金を絶対に着服できない。
漢字検定の財団法人でも、会長あるいは理事長は
直接、着服するようなまねはしない。
ましてや、シェイクスピア学会に、着服できるような
金すらないのだから
ひどい噂をたてるものだと、
むしろ怒りを感じたくらいだった。、


まあ、それはともかく、
シェイクスピア学会のことは、
その後、どうなったのか、よくわからないのですが、
たぶん、あなたは、自分にくだらないコメントで文句をいってくる
くだらないクズ日本人を蹴散らして大喜びだったのかもしれません。


あながた蹴散らした日本人(つまりこの私ですが)は、
将来の会長候補でもあった、有望な日本人であったことも、
あなたの自尊心をいたくくすぐったかもしれません。


でも、それからあなたの自滅というか
自壊がはじまったのです。
あなたの周りには、たとえば
そんなチンピラ研究者が日本語で書いていることなんか、
英米人は誰も読まないのだし、
大人の反応をしてほうっておいたらどうですかという
日本人の友人たちは誰もいなかったということでしょう。
そうした友人たちは、あなたの困窮に見てみぬふりをし、
またあなたの被害にあった人たちをも無視したのです。
ほんとうの人間のくずは、
あなたではなくて、
あなたの日本人の友人たちでしょう。


彼らは、あなたの好き放題にさせたことでも
責任があります。
あなたの日本人の友人たちは、
MとかSのことですが、
あるいはGといった英国人もあなたの知り合いでしたよね、
あなたをおだてるだけ、おだておいて、
結局、野放しにしたのですよね。
そのため自壊をはやめた。


あなたも離婚されたり、住む家を失ったりして、
たいへんなことがあったようですが、
周囲からは「アル中」という噂もあったのですが
(真偽は定かではありません。たぶん酒好きでも
アルコール依存症ではなかったと思いますが)
授業をしなくなったりして、かなり生活が
荒れていたのですよね。


ただし、よそ目でみると、なにか生活あるいは研究
あるいは人生上の問題にぶつかり、
苦悩していて、それが周囲への迷惑行為になっている
ということですが、
あなた自身にしてみれば、
たしかに、自分に歯向かってくる
つまり授業をしてくれと、要求してくる、
バカな大学当局やその関係者がいるとしても、
総じて、自由な生活を満喫し、
反対者をけちらし、友人たちからはおだてられて
けっこう自由に
負けなしの人生、
全戦全勝の人生を気楽に送ったといえるかもしれません。


自壊などしていなくて、全戦全勝の人生でした。
失礼しました。


そう、たとえ関係者が嘆いても、
関係者の怒りは、最終的に
あなたの日本人の無責任な友人たちに向いたのですし、
あなたは傷ついていないのかもしれません。


いまでは東南アジアの女性と知りありとなり、
日本を去られたようですが、
東南アジアでも、第二、第三の人生を送られることを
心から祈っています。


で、私はというと、あなたのせいでシェイクスピア学会を
辞めたことで、
学会活動に割く時間がなくなったので、時間的余裕ができました。
その頃は、私の母がガンになり、闘病生活に入ったので、
私一人で、介護をしていたため、
実は、時間がいくらあっても足らなかった。
そんなとき、学会活動に割く時間がなくなったのは
ほんとうに助かりました。
また母が死んだあとも、
学会活動で忙殺されることはなくなったので、
たんなるシェイクスピア学者ではない
なにかになったわけではないですが、
それになる途上に、いまもいる、
そんな道を開くことができました。


私の基盤は、
シェイクスピア研究なので、
時々、講演を頼まれたら、
シェイクスピア関連の話をするのですが、
世間では、私はたんなるシェイクスピア学者ではないので、
いろいろと要求がきつい。


そんな内容の話なら、シェイクスピア学者の**でも言えるし、
そちらにたのむだとか、
**でも言えるようなことの、その先をいくのは、
偉いというようにほめられるのは、
嬉しいのですが、同時に厳しい。


シェイクスピア研究者の私は、ふつうのシェイクスピア学者が
言うようなことしかいえないし、また、そういうことなら
いくらでも言えるのですが、
マクベスの台詞をもじれば、
シェイクスピア学者が語るようなことは、
いくらでも語ることができるが、
それ以上のことを語れというのは
至難の業ではないのですが、
それを要求され、その要求の厳しさに
いつも悲鳴をあげている次第です。


まあ、そんなことはどうでもいいかもしれませんが、
あなたのおかげで、私も道を踏み外して、
自分を広げることができた。
幸福なる転落でしょうか。
ですから、あなたのことを
ほんとうに、なにひとつ恨んでいない。


いや、転落したあなたをみて、ほくそ笑んでいるだけだと
世間では私の悪口をいうかもしれませんが、
そんなことはありません。
私も、あなたの転落が、幸福な転落であることを
祈っていますし、実際、それは幸福な転落であったことは
すでに立証されているようです。


あなたが、東南アジアで、楽しく余生をすごされることを、祈るばりです。

敬具