ロチェスター


BBCが昨年放送したニュルンベルク裁判の再現ドキュメンタリを衛星放送で見た。3話連続放送で、午後8時ですべて見たことになる。つまり続きは翌日かと思ったが、調べたところ3話で完結だった――シュペーア編、ゲーリング編、ヘス編。まあ妥当なところか。私はナチの幹部のこと、ニュルンベルク裁判のことも何もしらないが、そんな私でも、この三人くらいは知っている。


気がかりだったのは、第一話の再現ドラマのところでアルベルト・シュペーアを演じた俳優が、誰だったかどうしても思い出せないことだった。この俳優、記録フィルムに登場するシュペーア本人とは、あまり似ていない(唯一、似ているのはゲーリングだけだが、とはいえ太っているところが似ているというだけで本質的な類似性ではないのだが)。


あと一歩で思い出せそうで、思い出せない。まあ、本来なら、自らの戦争犯罪を認めて20年の禁固刑になり、死刑を免れたシュペーアがほんとうに戦争犯罪者でなかったかどうか、ゲーリング率いる被告団の鉄の結束が気に入らなかっただけではないか、ホロコーストについて責任がなかったのかどうか。この点を思い惑うべきなのに、俳優の名前を思い出せなくて、いらいらするとは、自分でも馬鹿ではないかと思う。俳優問題は決着していないのに対し、シュペーア問題は、決着しているのではないかと思う。『第三帝国の神殿にて』(中公文庫BIBLIO)でも買って読んでみようかと思うのだが、ネット上では(下)しか売ってない。(上)は品切れ状態のようだ。


衛星放送のエンドクレジットは日本版のそれで、俳優の名前は出てこない。で、俳優を調べた。


え、ナサニエル・パーカー。太ってんじゃん。


う〜ん、そうか。前に見たのはディズニー映画の『ホーンテッド・マンション』(エディー・マーフィーと共演していた)だから、あれから肉付きがよくなったか。近々、テレビでも『ホーンテッド・マンション』を再放送するから、ふたつを見比べると、私がすぐに思い出せなかった理由がわかると思う。まあ、二つを見比べる人(そんなことに興味とか、時間的余裕とかがある人)は、そんなにいないと思うが。



日本にいては把握できないのだが、ナサニエル・パーカーはイギリスではテレビの仕事が多いようだ。主役の刑事物が2000年から毎年、つくられているらしい。The Private Life of Samuel Pepys(03)というテレビ映画では、チャールズ二世を演じている。主役のピープスにはスティーヴン・クーガン? ピープスの肖像画が思い出せず、クーガンが似ているのかどうかもわからない。まあ似ていなくても関係ないか。クーガンは、『マリーアントワネット』にも出演していたし、マイケル・ウィンターボトム監督による『トリストラム・シャンディ』の映画化で主役だったらのだから、コスチューム物では、案外様になってるか。


ナサニエル・パーカーの最近の出演映画としては、Fade to Black(06)、Flawless (07)などという映画もある。前者はオリヴァー・パーカー(ナサニエルの兄)監督の映画(ピープスの映画もオリヴァー・パーカー監督)で、後者はマイケル・ラドフォード監督の映画で、どちらも面白そうな映画だが日本での公開はないらしい。Stardust(07)はこの秋日本でも公開らしい。B級SFファンタジーのようだ。『レイヤーケーキ』のマシュー・ヴォーン監督?、オールスター映画? でもB級SFファンタジー*1


私が始めてナサニエル・パーカーに出会ったのは『ハムレット』というべきかもしれないが、実は『サルガッソーの広い海』(原作の日本語訳のタイトルにあわせると)。ジーン・リースの有名な小説の映画化だが、ひどい映画だった。この映画をみると、ロチェスターというイギリスからカリブ海地域にやってきた若者が、現地のクレオールの女性と結婚する。この女性は、子供の頃、原住民反乱にあって両親と別れることになる。両親は、マイケル・ヨークとレイチェル・ワイズで、名前が知られている役者はこの二人だけだが、それでも冒頭のシーンで消えてしまう。さてふたりは新婚旅行に出かける。場所は、彼女が昔暮らしていた館。そこで毎日セックスしまくり。二人とも飽きがきて、夫のほうは原住民の女に手をだし、いっぽう彼女のほうは原住民の世界に感化されて精神的危機を迎え、そこに夫の浮気の発覚により、いよいよ精神に異常をきたし、イギリスに渡って、夫のロチェスターの館を焼く、という話。大筋はそうだが、しかし原作ってそういう話だったのかと首を傾げたくなるような内容だった。


いっぽう鮮明に記憶に残っているのがナサニエル・パーカーのチンポコ。寝室の窓から外を見ていた後姿の彼がふりむくと、チンポコ丸出しなので一瞬驚く。とはいえ、それ以前に尻丸出しだったのだが。シュペーアのチンポコと考えるとめまいがしそうだが、若い頃のナサニエル・パーカーは、ハンサムな優男で、私自身、この俳優は誰なのかといぶかっていた記憶がある。どうやら私は、昔から、ナサニエル・パーカーの前では、いぶかっていたよようだ。


その後、ナサニエル・パーカーとは、シェイクスピア映画で顔をあわせることになる。ゼッフィレリ監督メル・ギブスン主演の『ハムレット』ではレアティーズを演じていたし、兄のオリヴァー・パーカー監督の『オセロー』ではキャシオを演じていた。彼の存在によってオリヴァー・パーカー版『オセロー』がゼッフィレリ版『ハムレット』の延長線上にあることを印象付けることになったと、私は考えているのだが。


同じ俳優が複数のシェイクスピア映画に出ていることで、映画の意味が方向付けられることもある。キャスティングの意味論である。ゼッフィレリ版『ハムレット』で、ローゼンクランツを演じたマイケル・マローにーは、ブラナー版『ハムレット』ではレアティーズを、オリヴァー・パーカー版『オセロ』では、ロデリーゴを演じている。ブラナー版『ハムレット』で主役のハムレットを演じたブラナーは、パーカー版『オセロ』ではイアーゴーを演じている。この辺の組み合わせ、配役と、観客に与える印象などを、ある程度、システマティックに考えることができると面白いと思うんのだが。


ちなみに、『サルガッソーの広い海』の映画版には、ナオミ・ワッツが出ているのだが、どこに出ていたのか記憶なし。彼女が『マルホランド・ドライヴ』でブレークする前に見た映画なので、記憶に残っていないのもしかたがないのだが。それにしても彼女、ウサギの着ぐるみをつけていたのだろうか。

*1:8月27日の『ショービズ・カウントダウン』ではこの映画が全米初登場4位であると報じていた。豪華スター共演のファンタジーのようだ。見る気はしないが。