映画会総括

19日土曜日の映画会、Y田さんは来られなくて残念でしたが、Nさんの飛び入りもあって、少人数ながら盛会でした。


A 映画について

昨年、同じ岩波ホールで『父と暮らせば』を見て、みんな立ち直れないほどの衝撃を受けて、和民までたどり着いたのでしたが、今回の『紙屋悦子の青春』は、予想通りというか、予想外というか、衝撃的な映画ではなかったので、談笑しながら同じ和民にたどり着いて、しかもべつに予約していたわけでもないのに、昨年と同じ席でした(このシンクロニシティは興味深い)。


で、確かにNさんが指摘したとおり、昔の反戦教育映画みたいなところはありました。「皆さん、この映画を見て感想を書きましょう。ふたりは引き裂かれて可愛そうです」とかいって終わり。反戦がまちがっているとは思わないけれど、あいもかわらず同じ風景の繰り返し。


でもこの映画はそうやってくくって終わりにできる作品じゃなかった。


映画について、それぞれコメントしてくれたおかげで、夏ばて気味で、ぼんやり見ていた私とは異なり、皆さんが、細部までじっくり見ていたことに驚くとともに、この映画が一見、昔ながらの反戦教育映画にみえて、一筋縄ではいかない次元をもっていることに気づかされました。はっきりいって眠っていた私はそこで目をさまされたような気がしました。


この映画、聞き間違いが多いですよね。抽象的にいえばディスコミュニケーション。そして聞き間違いを正して、互いに理解しあうようになると、親密になっていくという構成になっています。また反復も多い。言葉、人間関係、その他、いくつかの反復が仕組まれている。というか人物たちも、それに気づく。


あと男女の悲恋ではあるのだけれど、たとえば最初のほうに兄嫁(本庄まなみ)は、夫(小林薫)と結婚したかったのは、同い年で仲良しの悦子(原田知世)といっしょになれるからだったと話して、夫(小林薫)を唖然とさせ怒らせるのですが、このような異性愛よりもホモソーシャルの欲望の先行というのは、悦子と結婚する長与(永瀬正敏)が友人の明石(松岡俊介)の身代わりでもあり、女性の交換になっていることからもみてとれます。実は昔の恋愛は、このホモソーシャルな欲望を継続させるために結婚するというパタンがけっこう多い。*1


また、もし悦子に妹か姉がいたら、その姉妹で、この仲のよい男性の二人と結婚するとなると、これでジェイン・オースティンの『高慢と偏見』になるのですよね。


あと登場人物と役者との年齢のずれ



(役者の年齢は、2006年から生年を引くという単純計算)
悦子(女学校を出たばかり)原田知世 39歳(67年生まれ)
永与(海軍少尉 20代前半か?)永瀬正敏 40歳 (66年生まれ)
明石(海軍少尉、永与と同年齢か、年長) 松岡俊介 34歳 (72年生まれ)
ふさ(悦子と同い年) 本上まなみ 31歳 (75年生まれ)
安忠(悦子の兄、ふさの夫)小林薫 55歳(51年生まれ)


と、まあ、役者の年齢と劇中の設定はみごとなほどずれている。おそらくこのずれも映画の意味に入っているのではないでしょうか。この作品は、前作『父と……』と同様、戯曲*2が原作で、映画も舞台をそのまま再現したかのような長回しになっている。戯曲、あるいは舞台は、ずれと、その克服の場です。あるいは、同一化を経験しながら、最後までずれという違和感とつきあうのが劇場という場であると考えています。


こうなるとディスコミュニケーションと反復、そして異性愛よりもホモソーシャル関係の優位など、今回、和民で話しあったことは、映画の戯曲的性格ともあいまって、なにか一貫したテーマめいたものに収斂してゆくようにも思います。


戦争三部作とりわけ『父と暮らせば』の評判から、昨年から黒木監督はテレビに出はじめました。巨匠ではあるのだけれど、これまでそんなに露出していない。今回も、この作品についてのメイキングをNHK教育テレビとテレビ朝日(昨夜)でみました。監督も露出している。そして今回メガホンをとる監督の姿は、トレードマークの黒い服装とベレー帽といういでたちであり、この姿で、じっとセットでの撮影を見ている。この姿が印象的だった。太った(失礼)ハムレットが、メランコリックに、この劇中劇をみながら、なぜヘキュバかと、沈思黙考しているようにもみえた*3。映画作品内だけでなく作品外にも意味形成の要素を広げることが出来るのではないかと感じた。


あと、戦争三部作にはなかった笑いが、今回の作品にもりこまれているのがよかった。映画の途中から観客席から笑いがもれた。爆笑している観客すらいた。前作『父と暮らせば』の印象が尾を引いていて、ついつい深刻になってしまい、笑いに違和感を覚えたのだが、実は、黒木監督作品は、おかしい要素が多々あることを思い出した。昔のATG時代の深刻な映画でも思わず笑ってしまう場面がいくつもあったことから*4、黒木作品と笑いもまた重要なテーマになるのではないかと思いました。


B以下、とりとめのないコメント(風説をふくむ)


1次回

a次回はWさんがまだ日本にいるようですから、ぜひ『ユナイテッド93』にしましょう。先週、毎日家にとじこもっていて、煮詰まっていた私は、近所のシネコンに夕方見に行きました。こんな面白い映画はめったにおめにかかれない。今年のベストかしれないと思いました。ぜひWさんを誘って。


b次回作の候補ではないと思いますが『マッチポイント』はすでに見てしまいました。日本には入ってきそうにないと思って、とっくに見てしまいました。夏木まりは、推薦文のなかで、ウッディ・アレンの映画だから笑ったと書いていたが、あの映画をみて笑う人は、怖い。


c『トランスアメリカ』のコードネームはトラボルタに決まりました。でぃすコミュニケーションじゃ〜。


2風説

a.今回、Fさんは、実は、戦争中の世界から、わたしたちのこの世界にタイムスリップしてきたことがわかりました。まあ紙屋悦子が、歳をとるのでなく、いきなり21世紀に迷い込んだようなものだから、苦労も多いと思います。どうかみなさんも、暖かく見守り、助けてあげてください。最終兵器彼女とか最終兵器R15なんていって、ごめんなさい。


b.やっぱり、Jが嫌い。
同性愛のみならず同性愛的な場面に嫌悪を示すのは、実は、同性愛的欲望を一番理解し、それを抑圧しているのだということは、Jが嫌っている*村*子先生がよく書いていることです。これからもJに、ゲイ・レズビアン的な話題をJにふっかけてください。


c.Wさんは、サセックスで海の音を聞くか、あるいはダラムでJと『恋する女たち』になるか、迷っているそうです。みんなはダラムで暖炉のまえでJとレスリングするWの姿を想像しています。


d.O型の人は、ひとりにして、周囲に誰もいなくなる状況だと、孤独になって、ナメクジのように溶けてしまうそうです。



e.結論。やっぱりJが最強。(なんのこっちゃ)でした。


なお皆さんも知っているM原氏が、会いたいと行ってきたのですが、毎日ひきこもっている私は、今回の映画会くらいしか出かける予定がないので、よかったら映画会どうぞと誘いました。アメリカに出発前だったので、出席できなかったのですが、私から今回の参加者のプロフィールを送ったところ以下のようなメールをもらいました。参考までに。



抜粋1
Y君:
彼は、僕に一番世話になった学年の一員です。
あの代の面々とは、時々、飲みます。(そこにYくんはいませんが)
前にヒューズ先生がいらしたときの、
「学生によるパーティー」では、会いました。

Sさん:
よく知っている後輩です。

Fさん:
もちろん、知ってます。

Wさん:
イサカ生まれの彼女は、
会うたびに思うのですが、
なんだか僕を恐れているようです。
たぶん、初対面の際の僕が悪かったのですが、
「怖い先輩」というイメージは、
つねづね払拭したいと思っています。

ちなみに、僕はO型で、父と妹もO型で、
母と兄がB型でして、
この〔映画会の〕メンバー構成は、ほとんど、我が家族と同じようで、
ちょっとビビッています。
ちなみに、うちの家族は、相互不干渉政策が効を奏して、
極めて良好な関係を築いています。


2.抜粋2
せっかくのお誘い、実際行きたかったのですが、
どうも無理そうです。
行く準備の前に、行く前に処理しなければならないことが多くて、
(そのくせ「太陽」は見に行ったのですが)
結局、今日も走り回ったあげく、まだやることが残ってまして。
残念です。お騒がせして、すみませんでした。
みんなにもよろしく。
ワコさんには、「道中気をつけて」とお伝えください。
吉岡くんには、「伊藤美咲はないだろう」とお伝えください。
(「オダギリジョー」とか言ってほしかった)
ほかのみなさんにも、よろしく。
映画、僕の分も、たのしんでください。
以上。

*1:このことは、2002年に若くして死んだ、私の知り合いの博士課程の女性が書いた日本の昔の恋愛形態をめぐる論文でも明確に指摘されていた。

*2:今回脚本に名を連ねている松田正隆の1992年の同名の作品。

*3:黒木監督の助監督をつとめたこともある東陽一監督はNHKのメイキングのなかで、黒木監督は非決定の人だと言っているのが印象的だった。

*4:竜馬暗殺』なんか、おかしすぎる。