公開されない質問状


****様


これはおおやけにしても証拠はなく、私の悪意ある捏造と思われるかもしれないので、ここでは現実にあったことか、虚構かを保証しないかたちで提示するしかないが、しかし、証人はいる。またその証人は、巻き添えにはなりたくないはずなので、この件については、おおやけのかたちでは沈黙を守るだろうが、この証人は個人的には私の記憶を保証してくれている。そのおかげで、私は、自分が妄想をいだいているのではなく、現実にあったことを記憶しているのだと確信できる。


あなたとは、****年の某学会のとき、昼休みで大学近くの寿司屋でいっしょに食事をしましたね。そのときはあなたと、私、そしてもうひとり女性がいました(これが証人です)。


そのとき雑談のなかで、話題は、翌年、X大学で開かれる日本英文学会の全国大会のことのおよび、あなたのいいぶんによれば、X大学の学生や院生たちは、礼儀知らずの連中が多いから、受付などで、偉い先生方に失礼な態度をとるかもしれない、そもそも誰が偉いかどうかも知らない無知な連中なので、あなたは自分が手伝ってやっているのだ、連中の監督をするのだと、私と連れの女性に話しましたね。


私はそのとき、X大学の教員ではなかったし、学会の開催というようなことについても全く無知だったので、ほうそうですかと、べつに疑いもせず、話を聞いていた。


さらにあなたはX大学にいる友人のYなんか学会の準備で疲労困憊している、みるにみかねて手伝ってやっているのだというようなことも話していましたね。まあ細部は、古い話で、こちらもよく憶えていない。あなたは、そんなこと、とうに忘れているでしょう。


私としてはそういうこともあるのかと感心し、どうか頑張ってくださいと、あなたの努力に感銘をうけた言葉を発したはずだ。今にして思えば愚かなことに。


あなたにとって誤算だったのは、それから数年して、私がそのX大学に移籍したことです。私はそのX大学の専任になってから、同僚のF先生に、「日本英文学会の大会のときは、Tさんが手伝ったのですか」と尋ねてみた。それは同僚たちのあいだでの雑談の話題が、大会のときはみんなたいへんだったという昔話になっていたからだ。するとF先生は怪訝な顔をして、「いや、そんなことはないよ。だいいち、よその大学の先生に手伝ってもらうことなんかない」とはっきり否定した。


あなたは、ひょっとしたら友人のYさんに頼まれたか、Yさんの疲労ぶりをみるにみかねて何か手伝ったのかもしれない。しかし、それは第三者からみれば、手伝うというようなものではまったくなかったと思う。X大学の関係者が、あなたのことを憶えていないのだ。


しかし、もっとありそうなことは、あなたは単純に言って嘘をついた。何も事情を知らない私に、自分を偉くみせようとして、そんな嘘をついたとしか思えない。そこまでして嘘をつきたいのか。


(X大学は英文科自体は小さな集団かもしれないが、X大学自体大きな大学で、なおかつ英語や英文学に関係する教員(当時は教官と呼ばれていたが)の数は多く、学内で応援を頼めたはずだ。実際、応援を頼んでいる。そして一般論としても学外の人間に応援を頼むはずもない。さらにいうとX大学の英文科が大会準備に忙しかった頃、私はそこで非常勤講師として教えていた。私がX大学の研究室で断片的に目撃した限りでは、学生の配置や細かな準備の総元締めをしていて忙しそうだったのは、Tさんの友人のYさんではなくて、H先生であった。なおその後、私は英文学会の大会の仕事をすることになった。そのとき、たとえば受付には開催校の学生をアルバイトに雇うのだが、誰が偉いかどうか、まったく知らないそうしたアルバイト学生たちでも、丁寧に応対して会費を徴収しているかぎり、なんら問題は起きない。監督など必要ない。これは私自身、受付で監督をした経験からも言えることだ。)


なぜ、あなたは、そんな嘘をついたのだろう。他愛もない嘘といえば嘘だが、私は嘘の内容よりも、平気で嘘をつくあなたの行為と人格をほんとうに疑い、恐怖する。あなたのような人間がなにか指導的な立場にたつことは、詐欺師が新興宗教の教祖様になるくらい、危険きわまりないことである。


もちろん、これはおおやけにできない告発である。私の悪意ある嘘であると思われても、それに反論できる証拠はない。しかし私は自分を信じている。ここに書いていることは、真実である。そしてあなたは人格破綻者である。私は真実に対してどこまでも責任を負う覚悟でいる。