モンスターズ・イン・ザ・クロゼット『モンスターズ・インク』Monsters Inc.2(2001) ゲイ映画解説2

●この映画はDVD化されたときに見た。見終わった私は、不思議な感覚にとらわれた。それが何であるのかすぐにはわからなかったも。そこで海外のネットのサイトを少しあたってみた。私はもやもやとした思いが晴れ、確信はゆるぎないものになった。
●ディズニー&ピクサーのCGアニメ映画『モンスターズ・インクMonsters Inc.(2001)は、子どもの恐怖の叫び声をエネルギーとして蒐集するモンスターズ提供有限会社に働くサリーとマイクのコンビが、ふとしたきっかけで、モンスターの世界に紛れ込んだ人間の女の子に翻弄されつつ愛情を抱き、やがて彼女を守るうちに、会社内での陰謀をつきとめ、さらに会社を、子どもをおもしろがらせ笑い声をエネルギーとする新会社へと生まれ変わらせるという、心温まるファンタジーとしてパッシングしているゲイ映画である。
●ネット上ではこの映画をゲイ映画とみる意見が流れていた。たとえば声優たち、サリー役のジョン・グッドマン、マイク役のビリー・クリスタルは、ともに有名なアメリカの俳優(喜劇が多い)たちだが、彼らはともにゲイの役を演じたことがある。また受付嬢役でマイクの恋人のジェニファー・ティリーは、映画『バウンド』(『マトリクス』のウォーシャウスキー兄弟監督1994)でレズビアン女性を演じたことで名高い。またモンスターたちが出入りするのはクローゼットのドアである。私は「クローゼットからモンスターが出てくる。Monsters coming out of the closet」とつぶやいてみた。そう、彼らはモンスターたちはゲイだ−−クローゼットは、ゲイならびにゲイ共同体を示す特殊な、だが公然たる隠語なのだから。
●映画の内容においてもゲイ的要素はある。マイクとサリーは同棲している。この映画は朝の目覚めのシーンから始まるのだが、サリーが起きるとそばにもうマイクがいる。このやや意表をつくはじまりは、二人が長いあいだつきあっている仲間(A Long Companion)であることがわかる。また巨人の怪物サリヴァンが通常はサリーと、愛らしい女性名で呼ばれている。このサリーは会社内ではNo1モンスターである(ホストクラブのホストのように)。そしてマイクは、このサリーのトレイナー/アシスタントであり、まさに「女房役」であり、サリーを羨望と愛情と畏敬の念で見つめている。とくにサリーたちモンスターたちの登場を迎えるアシスタントたちの、ああ、あの潤んだ目、その目のなんと強烈で印象的なことか。その目は、あきらかに男に恋をしている目だ。
●映画の世界では、クローゼットのドアで、人間の世界とモンスターの世界を区別している。このふたつの世界の設定は、一般人の世界とゲイの世界とが、境を接する別次元の世界として存在していることのメタファーである。しかも映画は、クロゼットの中の世界から、つまりゲイの世界から、人間の世界をみている。ヘテロな世界の裏側にできた異次元。そしてヘテロな世界の人間では、この異次元からの侵入者を心から恐れている。これがゲイ世界がおかれている状況である。
●この映画の世界は、ヘテロとゲイの世界の敵対と交流を描く。その交流のなかで夢見られるユートピア。クローゼットから出てくる怪物が、恐怖の怪物として恐れられるのではなく、楽しい仲間として受け入れられる世界。同性愛者がもはや怪物として恐れられることのない世界。このユートピアでは、さらにもうひとつの夢が実現する。それはサリーとマイクの間に、愛され守られるべき女の子ができることだ。同性愛カップルにとって子どもをつくることは最初から不可能である(それゆえゲイ・カップルには幸せな子供がねたましい。だから脅すのである)。しかし偶然からサリーとマイクのあいだには子どもができる。そこではゲイ・カップルの見果てぬ夢が奇しくも実現するのである。そのクローゼットの美学、そのクローゼットの夢*1

*1:なおオスカー・ワイルドの昔から、童話に禁断の欲望が盛り込まれるのは常套化している。なお私はゲイを禁断の欲望とは思っていない。