悪魔の発明


今日は、朝のワイドショー(26日日本テレビ)で、世界一の移植手術医師(日本人)の活動を紹介していた。みていてだんだん腹が立ったので、書くことにする。べつにその医師に反感を抱いたためではない。移植手術をめぐるシステムそのものが、あまりにも愚劣だからだ。


その医師が関係したケースに、あやかちゃんがいたことを、そのワイドショーを伝えていた。そのあやかちゃんのことは、べつの機会にテレビで見たことがある。


アメリカで高額の費用を払って移植手術を受けた。両親の財産を使い果たし、多くの支援金によってアメリカで手術を受けることができた。総額にして、数千万円から億という値段である。


その結果、あやかちゃんは、ほうっておけば余命いくばくもないところ、一命をとりとめた。しかしテレビが映し出したあやかちゃんは、副作用で顔が風船のようにはれ上がった姿だった。


移植後、あやかちゃんは、大量の薬を二年間、二時間間ごとに投与しつづければ、正常な健康体になるという。


これだけでも、なんのために手術を受けたのかわからなくなる。毎日二時間おきに二年間薬をのみつつづける。健康食品、サプリメントだって、2時間おきに2年間大量に飲み続けたら、絶対に体調を崩すだろう。それがサプリどころか、強力な医薬品なのである。


体調不良の苦しい日々がつづくだろう。すでに副作用が出ている。やがて小さな子供の抵抗力と生命力も尽き果てて、2年間はもたないことは、明らかである。


私がそのドキュメンタリーを見て唖然としたのは、アメリカの病院は、そのあやかちゃんを退院させたのである。そして自宅療養となった。母親もその決定というか通知には驚いていた。ずっと正常体になるまで病院で面倒を見てもらえるものと思っていた、と。


結局、自宅に帰ったあやかちゃんは、毎日、2時間ごとに両親から薬を投与される。人を雇えば多少は楽になるかもしれないが、これで若い両親の生活は完全に破壊される。財産を使い果たした両親にとって、それ以上、人を雇えないと思う。病院だったら、システムができているので毎日2時間おきに薬を投与するのは、むつかしいことではない。たとえそれが二年間続いても。


状況は、どうだろう。あやかちゃんは、移植手術後、2時間おきに2年間、薬を投与されつづけなければいけいない。そしてそうすれば正常な体になる。それが高額な移植手術日をとったアメリカの病院の治療。


しかし、常識的に考えても、あやかちゃんは、副作用に苦しみ、体調不良に苦しんだ挙句、抵抗力をなくし、2年もたないうちに死ぬ可能性が高い。2年もたたないうちに、入院していれば、死ぬだろう。


そこで自宅療養にする。そうすれば、あやかちゃんが死んでも、話が違うと病院が訴えられないことはない。自宅療養にすれば、一般的にいって感染症を起こす確率は、格段に高くなる。抵抗力が弱っているあやかちゃんが自宅療養中の早い段階で死亡する確率は高い。


そして予想通り、あやかちゃんは、突然、容体が急変して死亡した。


両親には限りない悔恨を残して。両親は死ぬまで責任を感じ、自宅で死なせたことで、自分たち自身を責めるだろう。両親を経済面で破壊した病院は、生活面で両親を破壊したあげく、精神面でも破壊する。そして病院側は責任をとらず、安堵するだけである。なぜならそんな治療を二年間続けてよくなる確率は少ないからだし、もし生き延びたにしても二年後、体調不良なままの子供を前にしたら、病院側は治療方法の責任を問われるだろう。あやかちゃんは、病院の関与しない自宅で死んでくれたのだから。


これは、病院側は、成功しない治療を、正しい治療と信じ、しかも責任をとらなぬまま、両親から多額の治療費をぶんどるのである。ぶんどりながら、命を救う使命感と失われた命に対する悲しみを本気で感じているのだ。


またこの場合、被害者にあたる両親は、最後まで、あるいは死ぬまで、医師の善意を信じ、自分たちの不注意で死なせたのではないかと思い悩みつづける。まるで詐欺の被害者が、被害者でありながら、自分たちが加害者であるかのように思い悩むようなものである。


もし悪魔といものが存在するなら、こうしたシステムをやまのようにつくるだろう。だます側も、だまされる側も、そこに犯罪、詐欺行為があることは、まったく意識せず、加害者はみずからの善意を信じ、被害者は加害者の善意を信じ、みずからの責任を問い、悔やみ続けるのだから。その間、数千万から億というお金が入る。


移植手術は、悪魔の発明である。