展覧会の絵

西洋美術館でのベルギー王立美術館展が明日10日で終わると気づいて、雨の中、上野まで出かけた。東京で10日終わってしまう展覧会の宣伝をするつもりはないが、16世紀から20世紀までのベルギー絵画の流れを70点あまりの油彩画と10点あまりの素描でみせるというのは、あんまりというか、粗いダイジェストにならざるをえず、企画展としての感動はない。ブリューゲルの《イカロスの墜落》は、海外の展覧会に出品させることはまれということで目玉となる展示だったら、なにしろこの作品は有名すぎて、しかも隅々まで観察されていて、新鮮味はない。ヨルダーンスの《飲む王様》は、電車の広告で見て衝撃を受けた作品である。宮廷ので宴会の絵かと思いぼんやりみていると、描かれているのは、完全に庶民の馬鹿騒ぎなので、mock-kingの絵かと思ったら、その通りであった。(あと1月にオープンする国立新美術館のモネ展のチラシがあって、これは興味をそそられた。というか国立西洋美術館のチケット売り場が敷地内に移動したことも、今日はじめて知った。)


企画展としての感動はないのだが、個々の作品は、はじめてみる重厚な絵画も多く、絵画を見るという点では、寒い雨の午後の時間を充実したものにしてくれた。


私の絵画鑑賞法というのは、美術史が専門の私の数少ない友人の一人に教えられた方法に忠実に従ったものである。まず図録を購入する。展示会場に入るまでに図録を購入するのである。


ちなみに国立西洋美術館は展示の最後のコーナーで図録を販売しているのだが、展示の出口にある売店でも図録を販売しているため、そこで購入。実は、筆記用具を忘れたので、売店でなにか売っているだろうと探して、フランダースの犬のパトラッシュが付いているボールペンを買った(日本のアニメ版のパトラッシュの小さなフィギュアがノックする部分について使いにくい。おまけに、急いでいて、あとになってからはじめて気づいたのだが、こんなプラスチックのボールペンがどうして400円もするのだ!*1)。


あと展示では入り口のところにロッカーがあり、入場者はそこに荷物を入れるようなのだが、まあよほどかさばる大きな荷物でももっていない限り、入場を拒まれることはないし、また荷物は必ずロッカーへという規則はないようだ。しかし展示は地下一階ではじまり、終わりは遠く離れた一階である。入り口と出口がちがうのだから、荷物を預けた場合、またわざわざ入り口まで、地下一階まで降りなければいけない。このへんは考えたほうがいい。


図録をもって入ったら、その図録の図版と実際の展示物を見比べるのである。そんなことをしなくてもいいと思われるかもしれないが、図録は自分で見た展示物を思い出す重要な手がかりとなる。しかし図録は印刷物なので、実際の作品とは大きさが異なることはいうまでもないが、印刷物の限界で、実際の色と異なることがある。というか、たいて異なる。


そこで図録の図版と実物とを見比べて、図録のほうに、メモをしておくのである。私の場合、実物は圧倒されるほど大きく、色は、図録の図版よりは淡いというようなことを、英語の単語なりフレーズで簡略に記述する。これだけで十分である。後日、図録を見てそのメモをみると、実物の印象が蘇る。メモがないと頼りになるのは図録の図版だけだけだが、これは印刷の限界で、実物と異なることが多い*2


まあ会場で図録を広げて見比べ、さらにパトラッシュが付いている変なボールペンでメモを書いている私は、印刷業者が印刷具合をチェックしているか、出版関係者が図録の出来具合を調べているか、ただの馬鹿と思われていたかもしれないが、でもお勧めである。比較する過程で絵画を緻密に観察することができる。


あと今日のように、入場者が多いときには、大きな絵画など全体を一望できないことがあるが、図録をもっていると、実際に実物の右端を見ていなかったとしても、見てしまった錯覚にとらわれる(これは悪い効果か)。


追記 
12月5日で触れた本が出版社から届いた。そこで2,3冊注文しようと、出版社からではなく、アマゾンでの購入を試みたが、近刊扱いなので予約しかできなかった。刊行日は明記されていなかった(でも本のカバーというか装丁の図版は掲載されてあった)。まあそれでもどうせ近々出るのだろうしと、予約したら発送予定日が2007年2月となった。そこで予約は取り消して、本が店頭に並んでから購入することにした。

それにしても2月? 出版社のほうでは刊行の遅れを見込んで2月くらいに刊行としていたのではないか。となると無理に年内に出さなくてもよかったのではないか。あと一ヶ月あれば、かなり良い本に仕上がったのではないかと思うと、またほんとうに当初は2月刊行だったとしたら、ひとごととはいえ怒りが湧いてきた。なにかのミスであることを願うが。

*1:まあフランダース/フランドルというのはベルギーだから、「フランダースの犬」は今回の展覧会に関係があるのかもしれない。また主人公は画家志望の少年だから、パトラッシュ付きのボールペンをもっていると、パトラッシュと絵画を観るということにもなって、絵画鑑賞にはよいのか。う〜ん。

*2:私が子供の頃、美術全集の出版が流行っていたのだが、マネの《笛を吹く少年》の絵の複製が、出版社によって色合いとか明度が異なり、いったいどれが本物に近いのかということを批判していた週刊誌の記事を読んだことがある。こんなとき本物と図版との相違を記録するのは重要なこととなる。