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この時期になると源泉徴収票が送られてくるので思い出す。私の書いた本の一部が国語の入試問題になっていること、を。


自分の文章が入試問題になるとは夢にも思わなかった。しかし、「今度あなたの書いた文章を使わせもらうわよ」と友人の大学教員から言われて、あれよというまに入試問題になってしまったという経験を話してくれた大学の女性教員もいたので、まあ、この歳になると、大学教員の多くは、自分の書いたものが入試問題に使われるという経験はするようなので、珍しいことではないだろう。


近年、この入試問題に使われた文章の版権問題が浮上している。つまり作者に版権料を支払わずに勝手に入試問題に使ったり、受験問題集に採録されているという実態が明らかになった。


この問題で頑張っている人たちと喧嘩をするつもりは毛頭ないが、私は、入試問題において使用の許可をとるとか、版権料を支払うということは、なくてもよいのではと思っている。版権料だって微々たるものだし、またあちこちの入試問題集に複数文章が採録されていてけっこう版権料もバカにならないという人がいたら、入試問題になりすぎるというのも、文章家としてはかなり恥ずかしいと述べておきたい。名文は入試問題にはならないので。


いや問題は版権のことで版権料のことではないだろうが、私は入試問題を作ったり採点する側なので、入試問題では版権を払わなくていいのではとどうしても思う(私自身の文章もどうぞ自由に使って欲しいと思っている)。とにかくそうしないと自由に、よい問題がつくれなくなってしまう。問題の幅が狭くなったり、問題が偏ったりするかもしれない。


研究のための引用は、かなり自由度が認められていると思い、それはありがたいことなのだが、もし入試問題作成における引用の場合、いちいち著者の許可を得たり(現実には事後報告であるが)、たとえ金額が微々たるものであっても版権料を払っていたら、この方式が、研究の場にも持ち込まれる可能性がありはしないだろうか。そのことを私は警戒する。