Infernal Affairs から揚・竜田揚編


あるときテレビで唐揚げと竜田揚げの違いについて説明していたが、私はその説明は違うと思った。違和感だらけなのだ。


このテレビに反応しているブログがあった。以下、引用してみる。

所さんの番組で鳥〔ママ〕の「空揚げ(唐揚げ)」と「竜田揚げ」の違いについて取り上げていた。
もちろんどちらも食したことはあるのだが、単純に味が違うだけだと思っていたんだけど・・・
実際は大きな違いがあるらしい。
それはにんにくを使うか使わないかということ。
前者が「空揚げ」となり後者が「竜田揚げ」になるそうだ。
他には竜田揚げには片栗粉のみを使うが、空揚げは小麦粉か片栗粉、もしくは両方混ぜて使うこともあるらしい。
だからどうしたの?!って言われればそれまでだがw
北海道にはザンギという食べ物がある。以下略

そこでWikipediaで「唐揚げ」を調べると、なかに竜田揚げについて記述している項目がある。

竜田揚げ
唐揚げによく似た料理に竜田揚げ(たつたあげ)がある。竜田揚げと唐揚げの違いは、竜田揚げは肉などに醤油とみりんから作ったタレに漬け込んで下味をつけて片栗粉のみで揚げる。しかし、唐揚げは、片栗粉と小麦粉を使用しなおかつ下味ににんにくを使用するのが竜田揚げとの違いがある。
「竜田揚げ」の名前は、百人一首のひとつであり、落語「千早振る」でも有名な在原業平の歌
千早振る 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは
から付けられている。
材料に染み込んだ醤油の色が、揚げることで紅葉のような色合いになるために、紅葉の名所である竜田川に紅葉が流れる姿が連想されるからである。
また旧日本海軍軽巡洋艦「龍田」の司厨長が、唐揚げを作る際に小麦粉が無かった為代用に片栗粉を用いて揚げた事を由来とする説もある(竜田揚げと表記せずに龍田揚げと表記する店もある)。

名前の由来はどうでもいいのだが、重要な記述もふくまれるので、ここに掲載した。


Wikipediaほど信用できないものもないのだが、一応出発点とする。所さんの番組がWikipediaの丸写しみたいだということがこれでわかる。というかその番組では唐揚げの町の地元の人たちが、Wikipediaと全く同じ説明をしていた。その番組を見てWikipediaが書かれたのかもしれない。あるいはこれも、ひとつの説明法なのかもしれない。


しかし、唐揚げの町と称する場所でつくられていた唐揚げは、私には竜田揚げにしかみえなかった。そのなかでもニンニクで下味をつけたものがあり、それを町の人たちも番組も唐揚げと呼んでいる。


一応まとめると竜田揚げは、醤油、みりんで下味をつけ、片栗粉のみで揚げる。


唐揚げは、下味にニンニクを使用。片栗粉と小麦粉で揚げる。(ニンニク以外の下味については不明)。


だが私のこれまでの理解では、醤油で下味をつけるかつけないかが、唐揚げと竜田揚げの大きな区分。だから所さんの番組ならびにWikipediaの説明には首をかしげてしまう。


テレビでは、下味にニンニクを使うか使わないかが決め手であった。しかしさきほどのWikipediaの説明にあるように、形状からも竜田揚げと唐揚げは区別できるのである。ニンニクを使ったものが唐揚げというのなら、食べてみるまで、唐揚げか、竜田揚げかわからないことになる。


ちなみに、All Aboutという、その道のプロがいろいろな知識を伝授するというサイトがあった。そこで「唐揚げ」のレシピをみる。引用は著作権にひっかかるかもしれないので、分量は引用しないことにする。

唐揚げ
(二人分)
鶏肉(胸肉やモモ肉)
卵 
片栗粉 
日本酒
みりん
しょう油 
ショウガ 
塩 
コショウ 
花椒 
揚げ油 

笑っちゃいますよね。これは片栗粉しか使っていないし、ニンニクも使っていない、しょう油で下味をつけるのだから、竜田揚げだ。しかしこれを唐揚げとしている。Wikipediaと所さんの番組が正しければの話だが。


ただし竜田揚げは、あくまでも唐揚げの下位区分だと考えれば、この竜田揚げ(Wikipediaと所さん番組によれば竜田揚げ)を、唐揚げとして紹介しても、まちがいではない。


なら唐揚げと竜田揚げの両方のレシピが紹介していあるサイトがいい。キッコーマン・ホームクッキングのサイト。いろいろなレシピを紹介してあるが、ここでは鶏の唐揚げに絞る。

お手軽から揚げ
鶏もも肉
片栗粉
揚げ油
サニーレタス
(A) 鶏肉の下味
キッコーマン特選丸大豆しょうゆ
砂糖

下味はしょう油だけでみりんを使っていないが、砂糖はみりんの代用なのか。このレシピはWikipediaの定義では「竜田揚げ」である。もちろん竜田揚げは唐揚げの下位区分だから、これを唐揚げといってもよいことになる。しかし同じサイトには竜田揚げのレシピも載っている。

竜田揚げ
鶏もも肉
しし唐辛子
片栗粉
揚げ油
塩 少々
(A)
キッコーマン特選丸大豆しょうゆ
・マンジョウ芳醇本みりん

とあるが、これは下味にみりんがあるだけでその差はない。ともに片栗粉で揚げる。ただ掲載されている写真をみると明らかに違うが、それは、みりんのせいか、竜田揚げのほうには揚げてから塩をふるせいなのかは、不明。しかしWikipediaの説明とは異なる。


ホームメイドプラザというサイトに鶏料理のQ&Aというコーナーがあった。
http://www.ecorient.co.jp/hmp/qa/tori.html
から揚げと竜田揚げの違いについて、竜田揚げに特化した以下の回答があった。

竜田揚げのことでいいですか?
昔、料理本で見たうろ覚えの記憶ですが、
竜田揚げとは、醤油に漬け片栗粉をまぶして揚げたものだそうです。
片栗粉の衣の白を竜田川のしぶきに、
醤油のこげた茶色の部分をもみじに見立てているようです。
間違ってたらごめんなさい。

このサイトでは、さらに質問が繰り返され、やがて東京ガスのサイトに導かれた。
http://home.tokyo-gas.co.jp/shoku110/chie/326.html
以下のような回答がある。

“から揚げ”とは本来、魚介類や肉類、野菜類などを、何もつけずにそのまま揚げたものですが、小麦粉や片栗粉を薄くまぶしつけたり、下味をつけたものに粉をまぶして揚げたものを言う場合もあります。“空揚げ”“唐揚げ”と書くこともあり、特に“唐揚げ”は下味をつけた食材に卵白、片栗粉をつけて揚げる中国料理の炸子鶏(ツァーツチー)のような料理を言うこともあります。


から揚げの中で、においの強いサバ、カツオ、鶏肉などに酒、みりん、しょう油などで下味をつけ、片栗粉やくず粉をまぶして揚げたものが「竜(龍)田揚げ」です。揚げ色が紅色をしているところから、紅葉の名所、竜(龍)田川にちなんで名づけられたようです。

とあって明快である。すくなくともニンニクがなんの決め手にもなってなくて、すっきりした。ざまあみろ。とはいえ、この説明でも、実はよくわからないところもある。


まとめると「から揚げ」は、1)何もつけずにそのまま揚げたもの。2)小麦粉や片栗粉をまぶしたて揚げたもの。3)下味をつけたものに粉をまぶして揚げたもの。


このなかで1)は竜田揚げとの違いが明確でいい。これは漢字で書けば「空揚げ」で和風か。3)は中華風の「唐揚げ」となる。「竜田揚げ」との区分はなくなる。2)は和風と中華風の中間で、竜田揚げとの区別がなくなりはじめる。ということは、なんでも「から揚げ」となる。何もつけなくても、しょう油などで下味をつけ、片栗粉をまぶして揚げても。ということは「竜田揚げ」は「空揚げ」の下位区分である。となると「から揚げ」(ひらがな)と「竜田揚げ」との違いといっても、「アジア」と「日本」はどう違うのかと尋ねるようなもので、「日本」は「アジア」の一部としかいえないし、質問自体がおかしい。


もうひとつ、レシピとか味の問題ではなく、出来上がったときの形状に違いがあるのなら、「揚げ色が紅色をしているところから、紅葉の名所、竜(龍)田川」にちなんで、そう呼ばれたというのなら、現在のから揚げは、しょう油で下味をつけるのが多いから、形状では区別できない。「片栗粉の衣の白を竜田川のしぶきに、醤油のこげた茶色の部分をもみじに見立てているようです」という説明も、現在、鶏のから揚げには片栗粉を使うことも多いからそれをもってして、区別することはできない。


となると全部竜田揚げなのか。それはいえる。現在では、鶏肉に下味のついたから揚げは、全部竜田揚げである。いっぽう下味をつけなかったり、粉をつけなかったりする変り種がある。これが「から揚げ」となる。ほんらいなら。しかし、現在、紹介されているレシピや売られているものは、「から揚げ」と称しているが、その実「竜田揚げ」である。


もちろん、これは鶏の「から揚げ」の味の問題とか調理のし方や食べ方の問題ではない。あくまでも名称と区分にこだわっているだけ。実際に、鶏の「から揚げ」を食する人にはまったく関係ないことだ。


ただ、いつの時期からか「から揚げ」と「竜田揚げ」との区分が崩れた。知の問題である。これからも区分は限りなく壊れてゆくだろう。両者は融合するといってもいい。ただ美味しければ、誰も名称など気に留めない。これは知の危機だろうか、それとも知の消滅の前触れさきがけ的な現象なのだろうか。