欲望という名の電車1

20世紀も80年代のことだが、比較的混んでいる東京の山手線の車内で立っていたとき、私の後ろに立っていた外国人の青年とそのガールフレンドらしき日本人女性が英語で話している。その会話の内容を聞くとはなしに聞いていたら、その外国人の青年が、自分はこうやってじろじろ見られることがおおいのだけれど、あんまり気にしないことにしたとかなんとか英語で喋っている。いまでは東京も外国人が増えた。外国人の姿は珍しくない。それなのにじろじろ見ているなんて、どんな失礼な奴なのかと、私はそっと首をまわして後ろを見た。なんと、そこにいたのは、いっしょに電車に乗っていた私の母。母はその外国人の青年の顔をめずらしそうに、しげしげと見つめているのだ*1。ちょっと、ちょっと。(続く)

*1:田舎者の母は外国人の姿を生で直に観ることはなく、失礼とは思いつつ、見とれてしまったとのこと。