Jackets

こんなことを書くと暇さえあればDVDを物色しているように思われるが(2月6日の記入参照)、そうではない。久しぶりに近所の新星堂のDVDコーナーをぶらぶらする時間ができただけである。


『ザ・ダーク』*1。ホラーコーナーに置いてあるが、このケースのデザインをみると、すごく怖そうで、よほどのホラーファンではない限り、買いそうもないなと思ったが、よく考えればこれは見たことがある映画。たしかに地獄のシーンは、このジャケットのような感じだが、事件は、ウェールズの海岸の断崖で起こり、陽光に照らされる昼間の風景は荒涼としているがのどかである。断崖の下は、こんな海岸があるのかと驚くような光景だが、それも陽光のもとでは特に不気味ではない。そもそもこの映画では地獄とは無縁のショーン・ビーンまでが、このジャケットでは地獄の住人化しているのはおかしい。


この映画はウェールズを舞台に、娘をさらわれた母親の探求物語、母親役のマリア・ベッロが、お約束の演技とはいえ、必死の母親(ショーン・ビーンは彼女の夫)を熱演している。そうか、これは『サイレント・ヒル』とも似ている。それでジャケットがサイレント・ヒル化しているのかと納得。


ただ繰り返すが、映画は最初からこんなに暗くない。現実の珍しい風景で観客を魅了する。ただし、ウェールズにもこんなところがあるのかと感嘆していると、実は、撮影はマン島で行なわれていて(クレジットに出てくる)、登場する羊たち(原作のタイトルは『羊』)も、ウェールズにいない種類だそうだ。せっかくウェールズを舞台にしながら、このような嘘にウェールズ人は敏感に反応するだろう。時には許せないと感ずるかもしれない。しかし私たちは、まあいいのではと思ってしまう。


アメリカン・ラプソディ』*2。これもジャケットだけをみると、スカーレット・ヨハンソンのうっとうしい顔が前面にでていて、あとは、その後方に若い男性の顔がみえるだけ。このジャケットをみて、この作品を買ったり、借りようとする人はそんなにいないだろう。しかしそれは実に惜しい。この映画、昔、レンタルして自分の研究室のコンピュータで見た。もう授業も終わって、学生も教員もいなくなった建物の研究室でひとりぼんやりと見ていたら、涙がとまらなくなっている自分を発見した。最初にスカーレット・ヨハンソンがちょっと出てくるのだが、あとは過去の場面にもどる。そしてふたたびヨハンソンが登場してくる前に、もう泣いている。だめだよ、あの女の子をだしちゃ。もう泣くしかないのだから。アメリカのネット上での素人の感想をみていていたら、夫といっしょに映画館でみた女性は、となりで夫がsobbingしていたと書いている。また泣きたいときには、この映画をみるとも書いている。そこまで何度も泣ける映画かどうかはわからないが、このジャケットからは想像できない泣ける映画であることはまちがいない。


ちなみにこの映画はハンガリーアメリカを舞台にしているのだが、ハンガリーの場面での音楽は、ハンガリーの音楽ではないとのこと。まあいいのではと思ってしまうのは、よくないとわかっているが。あと『王の男』のアメリカ版(The King and the Clown)のDVDのジャケットも、王とその後ろに顔がわからない忍者のような道化師的人物が空中にいるという、映画の内容とはかけはなれた構図になっている(アメリカでのタイトルにあわせたのだろうか)。これでは内容ともかけはなれているし、泣ける映画だとも想像できない。


『我は海の子』。え、なにこの映画。キプリングCaptains Courageous原作の映画(ヴィクター・フレミング監督)。1937年の映画で、スペンサー・トレイシーがはじめてアカデミー男優賞をとった映画。映画史に残る不朽の映画!? しまった。知らなかった。キプリングの原作も翻訳されていたのだろうか。最近出した翻訳のなかで、キプリングのこの作品については訳注をつけたが、新しい情報(映画化されたこともふくめて)を入れて、その部分、書き直さなければいけない。しかし、映画史に無知だった私は恥ずかしい。このDVD(1500円)をもってカウンターにむかった。


え、『ザ・ダーク』は買わないのかって? あんな怖い映画のDVD、買えるか! まあ風景は美しいし、マリア・ベッロは好きな女優だし、ショーン・ビーンも好きな俳優だが、怖いのは嫌いじゃい。『アメリカン・ラプソディ』は? あれはレンタルしてみてから、そのあとで結局購入したので、すでにDVDはもっている。

*1:The Dark(2005) John Fawcett監督、Maria Bello, Sean Beanほか。

*2:An American Rhapsody(2001) Éva Gárdo監督、Scarlett Johansson, Mastassja Kinskiほか。