チューリップとチョコレート

私の研究室は、ドイツ文学科のフロアと同じ階にあるため、ドイツ文学科の学生からは不信に思われているようだ。なかにはドイツ文学科のために私の研究室を奪還しようという、レコンキスタ運度をまでしようとしている学生もいるらしいが、ここはもともと英文科の固有の領土である。


現在の私の研究室は、まえは英文科の演習室だったところで、この部屋で私は授業をしていたし、この部屋で授業を受けたことのある学生も、まだ大学院生として残っている。英文科の新しい専任が決まりスタッフが一人増えるので、この部屋を演習から個人研究室に変えた。私は、とくに希望しなかったが、この部屋を私が個人研究室として使ったほうが、なにかと都合がよいといわれ、またそれは悪い申し出ではなかったので、この部屋に移住した。


ただ英文科の新入生は、私の研究室が独文科のフロアにあるので、不思議に思うらしい。独文科の先生方は、英文の演習室を私が個人研究室にして使うようになったという認識をしていて、不思議に思わないのだが、独文科の学生は、帝国主義者の私が独文のフロアに進出しているため、ナショナリズムを掻き立てられ、早く英文のフロアに帰れと思っているようだ。いつぞや、私の研究室を独文で使わせてもらえないかという申し出が独文の助手から英文の助手にあったらしい。


その独文のフロアに昨日13日にチューリップの鉢植えが置いてあったらしい。独文では心当たりがない。すると、これは私のところに誰かがプレゼントしにきたものらしいと独文研究室では勝手に判断したようだ。英文研究室にその鉢植えをもってきて問い合わせてきたそうだ。なんで? そもそも、誰であれ、なぜ、わたしのところにわざわざチューリップの鉢植えをプレゼントしにくると考えるのか。私はいったいどういう人間と思われているのだろう。


実際、私は13日に自分の研究室に来ているが、午後5時に退出するまで、そんな鉢植えはフロアの目に付くところにはなかった。


ところで本日14日は大学院受験生の二次試験(口述)だった。たまたまバレンタインデーと重なった。もう大学は春休みに入って、学生にとって授業はなくなったのだが、14日に行事があれば、昔は、女性の学生とか助手に義理チョコをもらったものだ。最近は、それがまったくない。こちらが歳をとって完全に魅力を失ったせいもあるが、チョコレートはゼロ。う〜ん。チューリップの鉢植えでももらって帰ろうかな。