欲望という名の電車 5
その人は文学部にやさしい人だった。
その人は文学部にやさしい人だった。昨年7月だったかサザビーのオークションにシェイクスピアのファース・トフォリオの完本が出品されるということで*1、宣伝のために、この際、大学でも購入してみてはどうかと、カタログを文学部長にもってきたのも、その人だった。
文学部長は、そのサザビーのカタログを、私に見せてくれた。とはいえ私は文学部長と特別親しいとかいうことではなく、文学部長は同僚だということにすぎないのだが。
そのカタログは総カラーページの豪華なもので、出品されるシェイクスピアの一巻本全集について解説したもの。シェイクスピアならびにシェイクスピアの戯曲、そしてフォリオ版について豊富な写真やイラストを交えて丁寧に説明している。大判の本(英文)。これだけでも市販されれば1万円は軽く超えるだろう。貴重な、しかも豪華本のカタログは、数冊あったようなので、その一冊を英文科でもらったように思うのだが、確認はしていない。
まあ1億円を超えるオークションになりそうなので、1万円を超えるカタログをつくっても、いたくもかゆくもないのだろう。結局、大学としてはオークションで競り落とすことはやめた。日本では明星大学は大量にシェイクスピアのフォリオ版全集を集めていて、ファースト・フォリオも明星大学がもっている。そういうこともあってやめたのだろう。
でも文学部、それもシェイクスピア関連のことをで話をもってきてもらったのは、ありがたかった。私は面識はないのだが、文学部長を通して、私とその人はつながったような気がした。
そして本日。家から出かけ間際、洗面所で顔を洗っていた私は、居間のテレビのニュースが聞こえてきて、その内容に驚き、テレビの前にかけつけた。文学部長は、そのことについて知らなかったようなので、伝えると驚いていた。金曜日。来週月曜日からのワイドショーにこの事件が記憶されているかどうか。それでもボクはやったのか。