そうだ京都へ行こう


JR東海の「そうだ京都へ行こう」の新作は、京都の春の上賀茂神社をフューチャーしたものだが、色彩が乱舞する天国的な春景色を見て、私はつづくそう思った。昨年の十二月、私たちは吸血鬼であった、と。


昨年12月のクリスマス直後に京都の知人を訪問した。知人宅は、京都の上賀茂神社に近いところで、食事までの散歩がてらということで、神社に案内してもらった。ただ12月の冬は日が暮れるのが早く、おまけに天気が悪くて、大雨になった。ひと気のない社内を三人でぶらぶらとみてまわった。有名な立砂(砂を円錐形に盛ったもの)もみた。頂点近くが欠けているのがおかしかったが。また神社は、初詣のにぎわいと混雑を前にして、ひっそりと休息いているようにも見えた。雨があがっても、曇っている。日が沈んでいる。あたりは暗い。ちなみに、知人は神社の前にある漬物屋に案内いてくれた。そこで「すぐき」を注文いた。妹の分と私の分だ。3月に宅急便で送ると言っていた。


また知人は、境内の外の明神川沿いにある土塀の町並み「社家町」(というらしいのだが)にも案内してくれた。あいにくの雨で、しかもけっこう車の往来が激しく、車に、その小川に落とされそうになりながら、名所だということで、その町並みを往復した。明神川は黒かった。汚れているのではなく、もう夜だったので、川が黒い。


ニール・ジョーダン監督の映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイアー』(日本語タイトル。ビとヴの使い分けに統一性がないが、公開時タイトルのまま)のなかで、吸血鬼たちは、昼の世界に生きられず、夜の世界で活動するしかなく、見るもの風景が、ほとんどモノクロにみえる。船旅をする吸血鬼たち。吸血鬼になった女の子が船上で海の景色を写生していると、海の部分を真っ黒に塗りつぶすところがあった。ああ、あの女の子は、子供の頃のキルスティン・ダンスト(いまはマリー・アントワネットか)。ナレーション(インタヴューを受けている吸血鬼としてのブラッド・ピットだったか)が入る。夜に旅する吸血鬼は、黒い海しか見ていない、と。


ああ、なんということか。せっかく案内してもらったのに、まるで吸血鬼のように夜の景色しか見ていない。昼の世界が、昼の上賀茂神社周辺が、まあ誇張があるにしても、こんなにも、こんなにも、こんなにも色彩あふれる楽園だったとは。この色彩の乱舞は、わたしたち吸血鬼がみた世界を排除し消し去るようなまがまがしき美として私に襲いかかってくる。ああ、窒息しそうだ。昼の光にああって、私たち吸血鬼は燃え尽きそうだ。