浅き眠り

ふとうたた寝をしてから目が覚める。夢を見ていた。眠りが浅いので、見ていた夢を憶えている。二階で病の床にある伯母さんに、これから出かける私たちは、言葉をかけておくこになった。ちょっと用があって出かけきますから、すぐに帰ってきますからと、母はそう伝えるように妹に促している。伯母さんは耳が遠いから、大きな声で言わないとわかりませんよと注意している。

どんなに大きな声を出しても、いまの伯母さんには伝わらないだろう。ただ、目が覚めて、私たちがいないとわかると、伯母さんは驚いて不安になって死んでしまうのではないかしら。伯母さんを一人置いて外出してもいいのかと、不安になる……。

目が覚めた。目覚めて意識ははっきりしているが、まだ目を閉じている。そうか伯母さんはこんなところで生きていたのだ。私はいまも、夢の入り口で死んだ伯母さんに会っていることに気づいた。普段は、深い眠りに落ち、夢の迷宮をさまようので、伯母は夢の入り口に置き去りになる。目覚めた後、夢の入り口で伯母に会ったことなど忘れている。

私も、ふだんはさほど気にかけてはいないのだが(九十八歳での死は、むしろ幸せだったのではと身勝手なことを考え、伯母の死をふだんは忘れている)、やはりその喪失は応えていて、夢のなかで生かしているのだとわかる。夢の入り口で私は死者と対話しているのだ。いまみた夢では話すまでにはいたっていないのだが。

と、その時、私は夢の中に、母がいたことに気づいた。あまりに自然にそこにいたので、死者と出会えた感激もなかったが、そこには死んだ母が、ごく自然に生きていた。私は、その母の息子(いまよりもはるかに若い息子)に、ごく自然になりきっていた。今年亡くなった伯母が、私の夢の入り口にいるのは当然かもしれないが、驚くのは、母もまたずっとそこにいたことだ――もう7年も前から。