空想図書館


とはいえ図書館の話ではないのだが。

私が時々見る夢に、書店で、聞いたこともない本に出会うという夢がある。


もちろん古今東西の書物を全部知っているわけではないから、知らない本に出会うのはあたりまえのことかもしれないが、場所は、古書店。天井まである書棚にびっしり並べられた古書のなかに、箱入りの立派な体裁の文学全集が並んでいる一角がある。最近は文学全集などでないから、それが並んでいるのは新刊をおいてある書店というよりは古書店であろう。本は古びているのだが、汚れてはいない。その分厚い箱の背中をみて、私はいぶかるのである。聞いたことがない作品だと。


古今東西の書物に通じているわけではないから、そんなの当たり前と思われるかもしれないが、文学全集である。どんなに大部の巻数が多い文学全集でも、そこに収録されている作家なり作品は、詳しいことを知らなくても、たとえ読んでいなくとも、名前くらいは知っているものである。


ところが夢のなかでは、まったく知らない本に出会う。しかも長編である。翻訳されている。そこで私はその一冊を購入し、中身を読み始める。そこに展開する不思議な世界に引き込まれた私は、いつしか周囲の光景が違っていることに気づき始める……


というようなボルヘスみたいな(そうでもないか)、夢をみることがある。


最近、イプセンの翻訳について調べるためにアマゾンを検索していたら、中央公論社の『世界の文学』も出てきた。昔なつかしい赤い箱、赤いハードカヴァーの本である。その巻には「イプセン」のほかに、もうひとりの作家の名前が。「ストリンドベリ」かと思っていたら、「ウンセット」。え、ウンセット。誰?


ノルウェーノーベル賞作家というと、ビョルソンであり、クヌート・ハムスンなのだが、残念ながら私の知識はそこまでで、ウンセットは知らなかった。しかし日本ではすでにいくつか翻訳が出ているようだ。私の無知が恥ずかしい。


私は古書店からその『世界の文学22 イプセン/ウンセット』の巻を購入することにして、それが届いた。イプセンの作品は『人形の家』と『建築家ソルネス』。この二作は当然読んだことがある。ウンセットの作品は、幸い、全体の四分の三を占めていて、イプセンよりも分量がある。しかも全三部作のうち、第一部。残りをどうやって読むんじゃい。


ペンギンからも三部作で出ているので注文した。


つづく