ワドハム?


最近、アントニー・スミス(まあ有名な人だが)の文献を調べていて、ついでに翻訳も購入した。そのうち二冊の訳者あとがきをぼんやりと読んでいたら、アントニー・スミスが所属していたオックスフォード大学のカレッジWadhamを「ワドハム」と「ウェイダム」と表記している。


最初、ある訳書でそれを見たときに、訳者が表記をまちがえているのではと思ったが、べつの訳者の翻訳ではさらに別の表記になっていたので、私の目の前が真っ暗になった。私は、いくつかの自分の翻訳で、このカレッジのことを「ウォダム」と表記してきたからである。ずっとまちがっていたのかとか、なぜミスに気づかなかったのか、誰も教えてくれなかったのか、イギリス人はどうやって発音していたのか思い出せない……とかなりあせったので、辞書で確認にした。英和辞典には「ウォダムカレッジ」と表記してある。


だったら、あってるじゃん。しかし、それだけでは安心できない。Routledgeという出版社がある。地名でもあり、人名でもあるのだが、私は「ラウトレッジ」と表記しているが、実際、そう表記している文献なり辞典は多い。しかし「ラトッレッジ」という表記もある。あるいは「ルートレッジ」という表記もある。有名なサッカー選手は日本では「ル(−)トレッジ」と表記していたように思う(なお綴り字の違いはちょっと忘れている)。この場合、どれが正しく、どれが間違っているかについては、正解はないというか、どれも正解なのかもしれない。人それぞれ言い方が違うというわけだが。


あるいはマダム・タッソーTussaudの蝋人形館というのがロンドンにある(私は行ったことはないのだが)。しかし私が知っているかぎりのイギリス人(数は多くないのだが)はみんな「トゥッソー」と発音している。「マダム・タッソー」では絶対に通じない。で、手持ちの辞書で確認すると、発音記号をカタカナに表記すれば「トゥッソー」である。しかし訳語には「マダム・タッソー」となっている。たぶん「タッソー」のほうが人口に膾炙しているということなのだろうか。となると辞書の表記が現実の発音と一致しているとは限らない。闇がある。