Broken Arrow

不機嫌2


以前、DVDで購入したものの、まだ見ていなかったフィンランド映画『ウィンター・ウォー』をみはじめて、残念ながら途中でやめた。見るに耐えなかったので。残酷だからという理由ではない。安い映画なのだ。前評判はよかったので、それにだまされて買ってしまったのだが、これはレンタルでちょっとみて、ああ、つまらないと返却すればよいような映画だった。購入するのは馬鹿だった。自分に対しても腹が立ってきた。


AMAZONで購入したのだが、そこでのレヴューはどれも好意的。こんなしょうもない映画を褒めるなんて、こいつら業者かと思ってしまうし、もし業者の宣伝じゃなかったら、いったいこいつらなんだということになる。


スペクタクル戦争映画をつくるほどのお金がないのは歴然としているが、そのぶん、脚本とか撮り方とか演出などによって、見せる工夫をしていもいいのだが、予算がないのと連動して、演出力も脚本力もすべてがなくってしまって、陳腐なフォーミュラー映画に成り下がっている。題材は魅力的である。しかしその題材の魅力を活かす知恵や技術がまったくない。また観客のことも、ショックをあたえて驚かせてやればそれを済むとしか考えていなくて、要するに、ひとりよがりなのだ。


たとえば芬蘭(←フィンランドを変換すると、この漢字になった。漢字表記としては正しいのだけれど、私のコンピュータがここまで知っているとは!)軍は、死んだソ連軍の兵士から銃弾を回収する。武器が不足しているから、そうするのだろうが、だったら歩兵銃ごと回収したほうがいいのではないかと思う。説明はない。調べてみると、フィンランドソ連から武器を供与されていたらしく、使っている武器は同じ。だからソ連軍兵士の銃弾だけもってくればよいとわかる。このへんは歴史的事実に基づいた細かな演出と褒められてもいい。だが映画のなかでは説明がない。それどころかこの映画のなかでフィンランド軍のヘルメットや襟の徽章はドイツ軍方式なのだ。私にはそのへんの事情はわからないが、時代考証がよもやまちがっているとは思えないので、ドイツ式なのだろう。だったらソ連軍と同じ銃とか弾丸を使っているということは、ますますわかりにくくなってくる。そのへん少しでも説明せいや


問題を整理してみると、ソ連フィンランドの「冬戦争」が題材である。圧倒的多数の強力なソ連軍に対して、人数も少なく非力なフィンランド軍が勝利した戦争であって、この戦争は、変な言いかだが「人気が高い」。物語としても面白い。少人数の素人といってもいい集団が、圧倒的多数の強力な軍隊に勝利するというのは、小気味いいし、ロマンもある。映画にもなりやすいだろう。古くは、黒澤明の『七人の侍』から、昨年の公開された映画では『墨攻』とか『300』とか、みんな少人数が圧倒的多数の勝利する物語である(『300』も裏切りがなければ勝利していた)。こういうとき、なぜ弱小もしくは少数の守備隊が大軍に勝利できたのかは、映画の興味の焦点となる。『七人の侍』も『墨攻』も『300』も、映画のなかではきちんと説明されている。フィンランド軍の場合も、勝利できた理由はあるだろう。事実、なぜフィンランド軍が勝利できたかは、さまざまな理由が、これまで提示されている。問題なのは、この映画だけが、なにも説明していないのである。映画の中心となるフィンランドの兵士の一団は、ただきびしい戦争を我慢して耐えただけである。時には勇敢に戦うのだが、基本的に耐えて耐え抜くと、ソ連軍は撤退していく。まるで春になって雪解けになったかのように。こういうのは奇跡とはいわない。絶対に負けると思った戦争において、犠牲も大きかったが、もてる知略の限りを尽くし勇敢に戦ったら、勝てた。こういうのを奇跡というのであって、もしこの戦争が奇跡といわれるのなら、この映画はその奇跡を何も描いていないのである。
 アマゾンでのレヴューをみてみる。

★4つの高い評価。
 リアルな塹壕戦の戦闘シーンがメインの映画です。リアルな戦争映画といえば「プライベート・ライアン」が有名ですが、どちらかと言えばジョン・アーヴィン監督の「ハンバーガヒル」「プライベート・ソルジャー」に近い感じがします。
 ちょっと気になったのがヘルメットの形。ドイツ陸軍とよく似ている(当時はソ連フィンランド進行〔ママ〕によりイギリスとソ連が一触即発状態だったため、フィンランドとドイツが同盟関係があったようには思えないんですが…。この時はソ連とドイツはポーランド分割で握手してましたよね(あくまで後年のバルバロッサ作戦以前の話です))。ただの偶然でしょうか?まさに「欧州情勢は複雑怪奇なり」です。

前半の判断にはあきれた。ジョン・アーヴィングの「ハンバーガー・ヒル」(ヴェトナム戦争)、「プライベート・ソルジャー」(第二次世界大戦、ヒュルトゲンの森の戦い、テレビ映画)は、どちらもアメリカ軍が多大の犠牲を出した戦い。『プライベート・ソルジャー』は、冬の森での戦いが中心となり、残酷なシーン(テレビ映画でここまでするかと思えるような)があり、雰囲気の点から似ている。しかし『プライベート・ソルジャー』*1は勝利を確信していたのに多大の犠牲を出したアメリカ側からの視点である。もし『ウィンター・ウォー』が、フィンランド軍など簡単にひねり潰せると思ったら、粘り強い抵抗にあい、多くの犠牲者を出したソ連側からの映画だったら、似ているのだが、この映画は、フィンランド側からみている。どういう視点か、どういう立場かみきわめてから、ものをいえ。あほか。こいつは。


ただこのコメントの後半は、すでに述べたように、私と同じ疑問を抱いている。やはりひっかかる。説明して欲しい。映画のなかで。


ちなみに大軍を相手に奮戦したフィンランド軍というのは人気が高いのだが、私のヒコーキ知識(Useless Talent No.40)からすると、フィンランドの空軍の国籍マークは、丸い白地に青い鉤十字。方向もナチスのスワスチカと同じ右回り(日本の寺の卍マークは、左回り。とはいえ、右回り、左回どちらも同じ象徴性をもつという意見もある。)。


つぎのコメント

★五つの満点評価
20年近くも前にマイナーな劇場で見た印象に残る映画。なにより、鳩が鳴いているようなフィンランド語にびっくり。DVDが販売されるとは思ってもみなかった。スターリングラード攻防戦では、ソ連軍兵士2人に銃1丁が与えられ、死んだ兵士の銃を取って戦ったが、冬戦争でフィンランド軍に与えられたモノは帽章だけ。「装備無し・・」。私は現在、凍てつく北海道の一地方に住んでいるので、寒さが身にしみて解る。「厳寒・・」。ただ、映画はフィンランド人の感性で冬の景色が描かれており、白色が美しい。およそ戦争映画とは思えない、ところどころの静けさまでが独特の雰囲気を作っている。雪、氷の白色と静けさに対比する戦争場面が強烈。戦車、戦闘機から小銃に至まで全てホンモノ。「ドクトル・ジバゴ」のプラスチックで凍り付いた大邸宅のように米国人のアホな感性はありません。

次は、完全な業者の宣伝コメントでしょう。

★5つの満点評価
大国ロシアに勝った事例というのは、日露戦争やこのフィンランド戦になるのでしょうか?
両軍の装備品などは、当時の再現が実物使用です。T26にしても当時のソ連軍戦闘機が出てきます。


当時としては、性能のよい戦車や装備を持つソ連軍が勝つことのできなかった原因としてソ連軍指導部の弱体化があったと思われます。これはスターリンの粛清で多くの優秀な将官クラスが処刑されるか収容所送りであったため、作戦も稚拙で、そのため貧弱な装備のフィンランド軍が勝利できたようです。


この戦争もあったことからフィンランド軍はナチスドイツ軍側についたこととなり、結果、第二次大戦後、カレリア地方は戻らぬものとなりました。


ぐちゃぐちゃな戦場の様子を当時、参戦したフィンランド軍兵士の証言も得て忠実に再現しております。

誰の視点で書いているのか。誰の視点なのだ、ほんとうに。もうすこし業者らしさを消してコメントするか、業者でなかったら、こんなまぎらわしい書き方をするな。


ちなみに「当時の再現が実物使用です」というへんな日本語になっているが、T26は本物のようだが、航空機にいたっては、下から見上げるだけなので、それらしい外形はしているが、本物かどうか不明。たぶん偽物でしょう。またもし本物だとしたら、これぞ本物という撮りかたをしてくれないと困る。低空を飛んでで地上を攻撃するわけだから、飛行機の姿をはっきり見せることもできるのだが、カメラ技術がなっていなくて、そこまで見せられない。


あとT26という戦車は、スペイン内戦でドイツの1号戦車と戦った軽戦車で、まあブルドーザーに砲塔がついているような貧弱な戦車。実物をみてもなんの感激もない。これがずらっと並べば迫力もあるのだろうけれども、見えるのは2、3台で迫力もない。


まあこの時期、ソ連では「鬼戦車T34」も登場する前なので、「鬼戦車T34」の第一波が攻撃をかけ、第二波として歩兵を乗せたT34が攻撃をかける(そのためT34には歩兵がつかまる手すりがいっぱいついている)という戦術は確立してないみたいで、この映画では、歩兵が戦車の前を歩いている(戦車の陰に隠れて進軍するのではなく)。戦争映画としては、こんな馬鹿な進軍シーンはないわけで、もしこれが史実とすれば、こんなすきだらけの進軍ではソ連も撃退されて当然だと思うのだが、そうなると逆に怖くない。激戦という感じもしなくなる。そんな映画ですよ、これは。

次も業者じみた宣伝コメント

★5つの満点評価
凄い映画だぁ〜。
私なりに数多くの戦争ものを観て来たけど、これは凄い〜。
「バンド・オブ・ブラザーズ」の濃ゆい所が(休息時間もあるけど)、基本的には ずっと続く。(バルジで包囲される所ですね)これはやりきれない... 塹壕での肉弾戦は観てるだけで痛い。戦線は、まるでWWIの「西部戦線異状なし」のようです。


伝説のスキー部隊は出てこないのですね。ひたすらに耐える塹壕&突撃のし合い。擬装用の白装束もすぐに黒くなって、最後は黒雑巾。 戦車相手には「モロトフ・カクテル」。


私はソ連の飛行機には詳しくないのですが、対地攻撃機爆撃機が出てきます。その手の方には涎ものかと。


最前線の兵士の目から描いているので、政治的&大局的にはどうなったのかを
知りたくなるでしょう?


「雪中の奇跡」「世界現代史28 北欧現代史」「ホワイトウォー」などが日本語で
資料があります。

まあ、ありがたいことに参考文献まで教えてくれる。「私なりに数多くの戦争ものを観て来たけど、これは凄い〜」というコメントからわかるのは、こいつは戦争ものの映画をみていない。バンドオブブラザーズだけが戦争映画じゃないぞ。ばかたれ。


それから「私はソ連の飛行機には詳しくないのですが、対地攻撃機爆撃機が出てきます。その手の方には涎ものかと。 」と書いてあるが、ソ連の飛行機に詳しくなくたって、下から見上げている映像で、なんとなく輪郭くらいしかわからない映像をみて、「その手の方が」喜ぶとでも、まさか本気で思っていないだろう。


しかも、これ、「伝説のスキー部隊」は出てこないは、「政治的&大局的にはどうなったのか」よくわからない、「戦線は、まるでWWIの「西部戦線異状なし」のようです」と、正しい指摘をしながら(いくら第二次世界大戦初期とはいえ、映画で描かれる戦いは第一次世界大戦と同じ完全な塹壕戦なので、映画のつくりかたはどうかと思う)、これらが減点材料にならずに、でも満点。こういう業者コメントに騙されて買ってしまった私はほんとうに馬鹿だ。自分にとことん腹をたてている。これだったらなにやっても満点じゃないか。


つぎも感想なのか業者の宣伝なのかよくわからない詐欺コメント

★4つの高評価
I-16やT-26がおがめる映画は、恐らくこのウィンター・ウォーぐらいだろう。
劇場公開時、どうせそのうちビデオが出るだろうとタカをくくっていたら、
今回のDVDまで入手できずじまいだった苦い思い出。
この映画でスオミの強さを実感してください。

くりかえしになるが、T26は本物のようだが、T34のようなカッコいい戦車とはちがうので、見ても感激しない。その貧弱ぶりに驚くが。I-16にいたっては、本物かどうか確認できない撮りかたをしている。ちなみにI-16ポリカポフがどういう飛行機か知らない人に一言。この時期の戦闘機の特徴でもあるのだけれど、もうずんぐりむっくりの、ほんとうにぶかっこうな飛行機で、かっこ悪い(愛嬌があるともいえるのだが)。そのため外形はまねやすい。太い胴体にすればいいのだから。なお、たぶんいまでもレストアされた機体がアメリカではたくさん飛んでいるはずで、戦争映画以外のところで目にする機会はある。「スオミ」というのはフィンランド人のこと。


同じく

★5つの満点評価。
第2次大戦でフィンランドソ連と戦ったことは、余程、戦史に興味のある方しか知らないだろう。
しかも日本と同じ枢軸国側で…。 1939年にドイツがポーランドに侵攻すると、ソ連もバルト諸国やポーランドに進出し、フィンランドにはスカンジナビア半島の付け根、カレリア地方の割譲を要求します。
フィンランドがこれを拒否したため、約3ヶ月にも及ぶ冬戦争が勃発します。


映画では、この冬戦争が始まる直前の「戦争なんて始まらないだろう」的な平和ボケした兵士(一般市民)が、 地獄のような攻防戦に引きずり込まれる様を描いています。 フィンランド軍の寄せ集めのような貧弱な装備と、ソ連軍の大量の物資と人海戦術がうまく描かれている。物語はある農家の兄弟を中心に描いているが、戦場では生か死があるのみで、人格も無くなるのがよく分かる。


映像的にプライベートライアンに通じる(こちらの方が先だが)、ちょっとグロいシーンも多いのでダメな方は要注意。


史実では、ソ連軍が主力部隊ではなかったのと、ドイツ軍侵攻前のまずい戦略のおかげで、フィンランド軍は善戦します。 結局、講和によって終結しますが、奪われたカレリア地方を取り戻すためにドイツと共にフィンランドソ連に侵攻します。 ドイツの敗北と共にフィンランドも大敗し、大戦後もカレリア地方は戻ることありませんでした。日本の北方4島以外にも領土を奪われた国があることも知って欲しい。

これは、まあ、まともなコメントのようだが、業者コメントでしょう。なぜなら、高評価で、なおかつ、他のコメントと同じように、解説をしたがっている。なんだこれは。もちろんフィンランドソ連の戦争のことに詳しい人間は少ないだろう。だから解説してくれるとありがたいというのは、確かだが、それが映画の欠点に触れない口実になっているところがある。


フィンランド軍の寄せ集めのような貧弱な装備と、ソ連軍の大量の物資と人海戦術がうまく描かれている。」というコメント。こいつは、ほんとうに映画を観たのかといいたくなる。フィンランド軍の貧弱な装備はなるほどとわかるが、ソ連軍もそれに劣らず貧弱。エキストラをたくさん雇えないみたいで、人海戦術もまったく迫力がない。


私が観た戦争映画のなかで、迫力のある、見ていて怖くなる人海戦術というのは、アメリカが制作したいくつかの朝鮮戦争映画で、そこで登場する共産軍の人海戦術の怖さは、目に焼きついている。その迫力は、こんな貧弱な映画の比ではない。フィンランド軍の貧弱な装備が伝染したのか、ソ連軍も、この映画自体も貧弱なのだ。


グロいシーンについて。主人公の弟が砲撃にあって、体中がばらばらになって死ぬシーンがある。胴体も上半身と下半身がばらばらになり、手足ももげているようだ。しかし頭部とりわけ顔は、きれいで出血もしていなくて泥もついてなく爆発による煤もついてない。その顔のついた上半身をかかえおこそうとして、カメラがきりかわって、後ろから顔の表情がわからないような映像になる。ここで人形のいれかわったことがわかる。しかもばらばらになった死体を片付けるときに、まるでちからったゴミをかたづけるように手際がよい。いいでしょうか。人間の体というのは、重たい。下半身だけ、いや両脚だけだって、10キロ以上はあるでしょう。10キロを超える荷物を軽々ともちあげられるか?もっと重そうに運べ、バカタレ。


残虐なシーンをつくってリアル感を出そうとしているというよりも、チープな残虐趣味でしょう。しかもリアル感が不徹底で、リアクションも貧弱。残虐感というのは、残虐なシーンではなくて、リアクションによってみせるもの。ばらばらになった死体を淡々と集めるな。いや戦争の激しさから、だんだん無感動になってゆくというのかもしれないが、では感動していたのが、いつ頃なのか、いつころから無感動になったか映画では説明されていない。


次は、アマゾンのコメントではなく、あるブログからだが、高評価だが妥当なコメントをしていると思われるので、一部省略して掲載する。

1939年11月にソビエトフィンランドに侵略を開始した第一次ソ・フィン戦争を題材にしたフィンランド映画で、そのスケール感とリアル感はフィンランド映画史上でも群を抜く出来らしい。フィンランド戦争映画は結構な数があるのだが、こうして日本でDVD化されたことは大変嬉しい事。しかも、それがあの彩プロさんからというのも何だか嬉しい(笑)。


内容はフィンランド軍第23歩兵連隊の軍事日誌と記憶に基づいて製作されたもので、フィンランド軍予備役兵の農家の兄弟を中心に、ソ・フィン戦争の開始から平和条約締結までを描いている。ソ・フィン戦争といえば、冬の戦争とも言われ、厳寒の最中に激しい塹壕戦、白兵戦を繰り広げたことで知られる。その戦闘シーンの激しさやリアル感、さらに戦死体のグロさはかなりのもの。しかも、1989年製作と言えばあの名作「プライベート・ライアン(1989)」と同じ年なのだから、この出来はかなり優れたものと言えるだろう。その戦闘シーンでは砲撃や戦闘でなぎ倒された木々が実に見事に再現されており、著しい自然破壊?と心配するほどである。後半部分では空爆シーンとともになぎ倒される木々のシーンはいささかやりすぎの感もあるが。使用する火薬量も膨大で、実弾ではないかと思うほどリアルな夜間の機銃弾道など迫力満点だ。また、ただ激しいだけでなく、本作は1対10程の人的、物的差に耐え抜いたフィンランド兵の苦闘と疲弊、そして絶望感を見事に描いている。戦う意図を明確に見出せなかった予備役兵が容赦なく襲う兄弟や戦友の死と、繰り返される殺戮の嵐で次第に人間性を失っていく戦友の姿を、疲れ冷めた目で見つめるのが印象的だ。


難点としては登場人物が非常にわかりにくいこと、作戦・戦闘の背景が不明なところがある。フィンランド人の名前に馴染みがないこともあるが、家族関係や部隊の階級などわからないままストーリーが進んでしまう。また、ソビエトが不可侵条約を破棄して侵入してきたのはわかるが、部隊がどのあたりでどのような任務についているのかがわからない。フィンランド軍と言えば、雪林でのゲリラ戦というイメージなのだが、本作は塹壕での正面抗戦が描かれている。なおさら、部隊の動きが気になるところ。この点はもしかもすると、DVD版が125分に短縮されたものであり、原版は195分ということなので、肝心な部分が大分カットされているためかもしれない。何とか原版を視聴してみたいものだ。


なお、気になったと言えば、フィンランドの冬景色なのに、役者の吐く息があまり白くない事。映像が見にくくなることを避けたのか、フィンランドにしては暖かい季節に撮影したのか、何か意図があったのだろうか。その点で、せっかくの冬の戦争なのだが、寒さという印象が薄い。


また、さすが北欧の国だけあって性にはおおらか。男の珍にボカシが入ったり、熟女ヌードもわずかながらあり。

  
登場する兵器類はかなりしっかりとした考証がなされているようで、ソビエト軍の戦車にはT−26戦車、OT−130火炎放射戦車が登場する。少なくとも4,5台は実働しており実車なのだろうか。航空機では単発、双発の戦闘機が爆撃及び機銃掃射するシーンが出てくるが、機影から単発はポリカポフI−16戦闘機、双発はイリューシンDB−3(IL−4)のようだ。多くは実機ぽいが、一部ミニチュア特撮の映像と思われるシーンもある。撮影はフィンランドだが、こうした兵器はどこから調達したのだろうか。また、軍装、銃器類もしっかりと考証をしているようで、M36野戦帽や制服が雰囲気を出している。


全体に戦争映画としてはよく出来ていると言えよう。装備も兵器も極端に不足していたフィンランド軍の実態と、その対ソビエト抗戦の絶望感を、リアルな戦闘シーンと莫大な火薬量で描ききっており、短い映画の中でかなりの長期間を戦い尽くした気がする。退廃的でリアリズムな描き方は、ソビエト芸術記録映画にも似たところがあり、「レニングラード攻防戦(1974,1977ソ)」「バトル・フォー・スターリングラード(前・後編)(1975ソ)」「スターリングラード(1993独米)」に類する出来と言えるだろう。もったいないのはやはり英語版のカットで、70分ものカットはいったいどうやったらそんなにカットできるのだろうか。

「全体に戦争映画としてはよく出来ていると言えよう」だと。あほか。こんな馬鹿は、早く地球を去れ。このコメントでひっかかるのが「その戦闘シーンでは砲撃や戦闘でなぎ倒された木々が実に見事に再現されており、著しい自然破壊?と心配するほどである。後半部分では空爆シーンとともになぎ倒される木々のシーンはいささかやりすぎの感もあるが。使用する火薬量も膨大で、実弾ではないかと思うほどリアルな夜間の機銃弾道など迫力満点だ。」という箇所。


戦争は途中から塹壕戦にはいってしまって、牧場の向こうから責めてくるソ連軍を、里山の麓のようなところに塹壕をほって迎え撃つという「正面抗戦」なっているので、砲撃や爆撃を受けて倒れる木も、里山の麓の貧弱な細い木ばかりで、まあそこに植わっていたというよりも作って置いたものだから、みていて自然破壊が心配になるようなことはない。森のはずれで雪原の敵を向かえうつだけなので、森林を破壊してはないでしょう。


あと「使用する火薬量も膨大で、実弾ではないかと思うほどリアルな夜間の機銃弾道など迫力満点」とあるが、そのブログでは、戦争映画についてのコメントするブログなので、この表現には驚く。あの程度の火薬というか花火を膨大と表現する人は、これまでふつうの映画をみたことがあるのだろうか。テレビのドラマだってこれくらいの火薬を使う。また「実弾ではないかと思うほどのリアルな夜間の機銃弾道」というのは、最初、みていて驚いたのは事実。しかし、夜間、雪原にぽつんとある納屋が銃撃をうけて炎上、爆発するシーン。しかし、その納屋がなんの目的でどういう役割をはたしている納屋か、まったくわからない。いや、それにしても、遠くから銃撃しているわけだから、機銃弾道は、多少は放物線を描くでしょう。一直線ではないはず。そう、気づくと、機銃弾道は昼間でもみえる。え、これってただの特撮でしょう。


たとえば手前がフィンランド軍の陣地。奥がソ連軍で対峙している。すると画面の真横から銃撃はあって、それが細い木に命中して、木が途中で折れる。わかるように、実弾を発射して、あのタイミングで木に当てて、木を倒すのは、むつかしい。タイミングもとりにくい。しかも、木は、あきらかに幹に火薬が仕込んであって、それが発火していることがわかる。木に火薬を仕込んで発火させ、木が倒れるところを写す。あとで機銃弾道を入れる。それも画面の右から左へ。昼間でも、レーザー銃のように、はっきりと機銃弾道がわかる。そもそもどこから撃っているのか。さらにいおう。機銃弾道がはっきりしすぎ。まるでSF映画のレーザー銃だ。いやほんとうに機銃弾道が画面にあらわれるや、『スター・ウォーズ』の銃撃戦のようになる。ほんとうにやすっぽいんだよな。


コメントの最後に70分のカットとあるが、もともとは190分の3時間を越える映画らしい。英語版というのは最初に英語のナレーションがはいるからか。台詞はフィンランド語のはず(フィンランド語がわからないのだが)。いやあ2時間でじゅうぶん。3時間もあったら、発狂するか寝てしまう。


(なおM36野戦帽というのは、軍服にまったく詳しくないこちらとしては、いわゆるドイツ軍の軍装品と同じものと解釈しておく。軍事大国・軍事先進国であったドイツの軍服は第二次大戦までは、ヨーロッパ各国に影響を与えていて、フィンランドの軍服も、ドイツ式だった。もっともソ連の軍服にも影響を与えてたのらしのだが。)


ふたたびアマゾンのコメントもどる。

「佳作」とあり
★4つの高評価。
ビデオが長らく廃盤でしたがこの度DVDにて復活 彩プロ製なのでバトルフォースターリングラードのような怪しげな日本語吹替を期待したが吹替無しで少し残念 商品内容もディスクのみで割り切っている 画質もリマスター無しでノイズ乗り乗りです まぁ復活しただけでも良しと言うとこでしょうか 作品はさすがに古さを感じるがドンパチシーンが多く、まじめに製作されている従来の評価は色褪せない ソ連兵の人海戦術は今見てもすごいですね ただこの作品には感情移入できるストーリーは無いので悪しからず 観るのはドンパチ目的です 2〜3回観たら倉庫行き 後は年1〜2回観るくらいでしょう

このコメントをまとめると、1)ディスクは一枚で、特典映像は予告編だけ。2)画質はよくない。3)映像感覚は古い。4)まじめに製作されている。5)ソ連人海戦術は今見てもすごい→この映画のなかの人海戦術はすごくない。6)感情移入できるストーリーはない。7)みるのはドンパチ目的。8)2~3回見たら倉庫ゆき。9)それもで年1~2回みる?


1)と2)と3)と6)は否定的評価(まったく同感)。+評価は4)と5)と7)と9)。しかし+評価のうち、5)は、私的には疑わしいと思うのだが、8)と9)は矛盾している。年に1~2回みるというのは高評価。お気に入りの一枚といってもいい。でもカタルシスもない、感情移入もできないのに、また貧弱な画質なのに、戦闘シーンだから、そこだけをみる? 変態やね、こいつ。この変態のコメントをそのまま信用して受け止めれば、★5つのうち、よくて★2つか★3つらいでしょう。でも★4つの高評価。おまけに「佳作」としている。ある意味、これまでのなかでいちばんきちんとしたコメントなのに、考えていることが、よくわからない。


なお誤解のないように言っておくが、私は安っぽい映画が嫌いということではない。評価の低い作品、みんなが悪口を言っている作品についても、どんなものかとレンタルすることはある。ときには『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールズエンド』みたいに、劇場でみたのだけれども、DVDが発売されて、あまりに評判が悪いので、結局、購入したこともある。あれほどシュールな映像を惜しげもなく出すエンターテインメント系映画は、珍しいのだが、多くのDVDファンに不評だからこそ、購入予定はなかったのだけれども買った。


あるいは彩プロダクションが輸入したこの映画。低予算もその理由に挙げられるが、それ以上にいろいろな理由でチープなこの映画を、まあつっ込みどころ満載だけれども、でも、ちょっと感動したとか、チープさがけっこういいとかいう理由で、★5つのうち、通常なら一つか二つだけれども、まあ★3つあげてもいいとか、あるいは、誰がみてもチープな映画かもしれれないが、これこれこういう見所があって、自分は評価したい。★10個じゃという、馬鹿がいれば、それはそれで面白いので冒険して買ってみてもいいし、やっぱりチープだったとしても、後悔はしないが、すごい傑作・佳作であるという宣伝にのっかって、購入した私は、はっきりいって、詐欺だ金返せといってやりたいし、業者による宣伝ならまだしも、業者でもないのに傑作だと思い込んだ馬鹿は、うんこ食って死んでしまえ(ちなみにこれは変態差別ではありません)。


なお、今回、このチープなフィンランドの戦争映画をとおして、第一次世界大戦から第二次世界大戦へといたるフィンランドの歴史を調べてみた。う〜ん、フィンラド、貧乏くじの連続じゃね、冬戦争でソ連を撃退しまではいいが、継続戦争が始まるし、第二次世界大戦では結局、ドイツ側について枢軸国側として戦い、負け組みとなるし。かつてロシア領から独立したのはいいものの、君主の貴族には結局食いものにされ、ソ連帝国主義の犠牲になり、ドイツのファシズムの味方と思われ、結局、フィンランド国民、いいとことないじゃん。ふんだりけったりじゃん。


そこで思い出した。昨年、映画館でもみたが(渋谷のユーロスペース)、昨年暮れの12月にDVDが発売されたアキ・カウリスマキ監督の『街のあかり』。あの映画。中途半端にハンサムな青年が、仲間から嫌われ、女には騙され、ギャングには利用され、ふんだりけったりなのだが、最後に、どんなにしいたげられ、屈辱的な目にあっても、ささやかな希望の朝の光が降りかかるという内容で、まあ、苦しくても希望を失わない柔軟さと、人間の苦悩へのやさしい眼差しとかなんとか、そんな映画評が多かったが、まあ、たしかにそういう映画かもしれないが、ほんとうに不器用でお人よしで、利用されまくる愚直で純朴な青年の姿は、国内外で、食い物にされ利用され屈辱的なめにあってきたフィンランド国民の姿にかさなってくる。あの映画は、案外ナショナル・アレゴリーの映画じゃないのか。そんなふうに思えてきたのは、収穫だった。

*1:John Irving 監督The Trumpets Fade(1998).