阪急電車 急行は速い。


本日、阪急電鉄に就職するという学生がいたので、「阪急電車は急行が速いですか」と尋ねてみた。「いえ、全然、速くない、遅いですよ」という答えが返ってきた。


なぜ、そんな質問かというと、アメリカの映画10 Things I Hate About You(1999)*1で、高校生の女の子が、日本語の横書きで「阪急電車 急行は 速い」と文字が書いてあるTシャツを着ていたのをみたからである。これは、みると驚くし、なぜ阪急電車なのかもよくわからない*2


この映画、シェイクスピア映画に関心がある人なら誰でも知っている、けっこう有名な映画で、シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』をアメリカのハイスクールでの恋愛ゲームに置き換えたもの。可愛い人気者の女の子がいるのだが、そのお姉さん(ジュリア・スタイルズが演じている)がじゃじゃ馬で、うっとうしいので、妹のほうのボーイフレンドたちが画策して、お姉さんのほうに、クラスの変な男をあてがうというもの。この変な男というのは、原型があって、同じハイスクール物の古典映画『リッジモンド・ハイ』のなかで、ショーン・ペンが演じていた役と同じといえば、わかる人にはわかる(そんなん、わかる人のほうがおかしいか)。この10 Thingsでは、この変な男を、いまは亡きヒース・レジャーが演じていたのだが、それはともかく、映画の終わりのほうで、家のベランダでお姉さんと妹が話し合うとき、妹*3が着ているTシャツに、「阪急電車 急行は 速い」と。


実は、このことは、いまはなきテレビ番組『トリビアの泉』でも取り上げられて放送されたことがある。ただし番組では、この映画がシェイクスピアの芝居のアダプテーションであるという事実は、トリビアルなものとされたのだろうか、紹介されなかった。


しかし今思い出すとあの映画、印象的なものが多い。若い頃のジュリア・スタイルズの元気のよさ、若き日のヒース・レジャー、そして、へんなところのある演出。たとえばジュリア・スタイルを家まで車で送っていったヒース・レジャーが、車のなかで彼女にキスをしようとし、彼女もそれを期待するのだが、やめるシーンがあって、あえて、わざわざ彼女をじらしているということなのだろうが、実は、映画の流れとしては、その直前、ジュリア・スタイルはパーティで飲みすぎて、会場の庭で反吐を出し、そのため彼女は、すぐに車に乗せられ、家まで送られというわけだが、ほんの直前に反吐を出した彼女とのキスをヒース・レジャーが躊躇しているようにもみえてしまい、あれは演出の失敗だろうと思った。


しかし、今思い出すと、妹のボーイフレンドになる男が、そのひ弱さ、その幼なさ、線の細さで印象的だった。ミスキャストではないか。ちょっと俳優に難があると思わずにはいられなかった。事実、ネット上でも、同じような評価をする日本人も多かった。


だが、その少年を演じていたジョゼフ・ゴードン=レヴィットJoseph Gordon-Levittと、グレッグ・アラキGregg Araki監督Mysterious Skin(2004)で再会したとき、私はぶっとんだ。この映画のなかで、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、Male Prostituteの役を演じているのだが、10 Thingsの頃の、ひ弱な面影はなく、ゲイのオーラというか、ゲイのフェロモンだしまくりの圧倒的な存在感に、私はひれ伏した。彼に抱いてもらいたいと本気で思った。

*1:Dir. by Gill Junger.日本では公開されず、2001年ビデオで『恋の空騒ぎ』とかいうタイトルで販売されたはずである。ちがっているかもしれないが

*2:この映像を、ある大学の集中講義で見せたとき、アメリカのサンフランシスコに留学していたという女子院生が、同じTシャツをサンフランシスコの***の店(そのような変わった商品をあつかう有名店らしい)で、見たことがあると言ってくれた。

*3:妹を演ずるLarisa Olenikは『ブロークンフラワー』なんかにも出ている。ちなみに私が研究室で一人で見て大泣きしてしまった『アメリカン・ラプソディ』に出ていた時は、気づかなかった。