その名にちなんで

レオポルド・ブルーム

NHKの衛星放送で深夜放送した『レオポルド・ブルームへの手紙』と題された映画*1、テレビで見なかったのですが、映画そのものは知っています。あれはジョイスの『ユリシーズ』とは関係のない映画です。というか、直接関係はないのです。たしかに『ユリシーズ』にはレオポルド・ブルームへの手紙が出てきますよね。あれかと思って見た私が馬鹿でした。2005年に日本で公開され、いまではDVDも出ている作品ですが、ネタばれにならない程度にいえば、主人公の少年が「レオポルド・ブルーム」という名前をもっているのは、やはりジョイスの『ユリシーズ』からです。なんだ関係あるじゃんといわれてしかたないのですが。母親(メアリ・ブルーム)は、もともと文学部の大学院を出ていて(と記憶するが)、PhDの取得寸前まで行ったのだけれども、結婚して専業主婦になり、夫は大学の教員、彼女の友人の女性も大学で教えるようになっていて、彼女だけが、あまり可愛げのない、二歳の娘を育てて忙しい日々を送っています(同じように文学部大学院を出て、主婦になって悶々としているというのは『リトル・チルドレン』でケイト・ウィンスレットの役でしたが)。そのため母親は、息子(「生まれる前に、運命が決まっていた」という息子)に「レオポルド」という名前を『ユリシーズ』にちなんでつけたのです。


やっぱり関係ありますね。ただし、アイルランドとか、ダブリンとか、ジョイスとか、そういうこととは関係がなく、『ユリシーズ』の映画化ではなく、『ユリシーズ』の世界の延長線上にあるわけでもありません。舞台はアメリカですから。出所したスティーヴンが、レオポルドに手紙を書くという話ですから。あれ、これってやっぱり『ユリシーズ』?


実際、母親の不倫、父親の死、父親の死の後釜に座った男、なんだか『ハムレット』みたいな話でもあるのですよね。そう『ハムレット』といったら、やはり『ユリシーズ』。そのなかに『ハムレット』論もあるし、しかも、スティーヴン・ディーダラスもレオポルド・ブルームも、ハムレットの影がありますよね。母親、女性一般へのミソジニーーもあって。うん? そうなると『レオポルド・ブルームへの手紙』*2、『ユリシーズ』と関係ありありですよねと、いわれかねません。困った。

*1:どうして今、突然に放送するかわからない。主演のジョゼフ・ファインズの映画『マンデラの名もなき看守Goobye Bafana(2007)が、いま上演中だからか?

*2:原題はLeo(2002)。『レオポルド・ブルームへの手紙』という日本語のタイトルは、『ユリシーズ』ファンを取り込もうとしたのか、『ユリシーズ』ファンをがっかりさせたり怒らせることを予測しなかった、たんなる不注意なのか?