ミネ・ハハ1


宮崎勤が昨日、死刑になったのですが、実は、私は、いまから20年くらい前に、宮崎勤が捕まった頃、宮崎勤に似ているといわれました。いえ、やっていることがではなく、というか、なにをやったのかは、またほんとうにやったのかは、いまでもわからないと私は思っているのですが、それとはべつに、どこが似ているかというと、顔ね。いまメディアに流れているのは、逮捕当時の映像で、いま現在の私とは、似ても似つかないのですが。当時は、自分では、そうは思わなかったけれど、似ていたみたいです。


当時、学生から、冗談半分で、「先生は、宮崎勤に似ていませんか」と言われてショックを受けました。同じ日か、それからまもなくしてか、大学院生(だったか、大学院を修了して非常勤をしていた先生だったか、いずれにせよ女性)と会って、話をしたとき、学生から宮崎勤に似ているといわれ、ショックを受けたと話しました。そうしたらその院生だったら非常勤講師だっかは、「ああ、そうですか」と、嬉しそうな顔をして、「学生さんたちも同じことを印象を受けるのですね。実は、私もそう思っていました」と。ショック。


その日、家に帰って、母にそのことを話したところ、母もまた、「みんな同じことを考えるんだ」と納得したようすで、「実は、私もそう思っていた。でも、そのことを話すと、おまえがショックを受けると思って黙っていた」――といわれ、二重、三重のショックを受けた次第。母親からも見放されたのでした。


繰り返しますが、いまメディアに流れている宮崎勤の映像は、逮捕当時のもので、いまの私とは似ても似つかない。たしかに似ていないでしょう。ただ、昔は、自分ではそうは思わないのだけれど、似ていたらしい。雰囲気がそうだったのか。いまとなっては不明です。


さらに繰り返しますが、ただ顔が似ているというだけで、宮崎勤がやったかもしれないと思われていることは、やっていません。あたりまえです。ただ、どうしてそんなことを思い出しかというと、どういうわけか、あなたが、『エコール』という映画をみたのですよね。今頃になってね。そして感想となると――よかった、きれいだった、可愛かった。それだけ? もしそうだとしたら、あんな変態映画を喜ぶ(それも素朴に喜ぶ)なんて、あなた変態ですよ。


『エコール』の監督ルシール・アザリロヴィックは、1961年5月7日フランス、リオン生まれで、あの、あのギャスパー・ノエの公私にわたるパートナーとして知られると、資料にあります。あのギャスパー・ノエですよ。そのパートナーで、ノエの映画製作に協力しているわけですよ。『エコール』は、絶対に変態映画だと思いました。


ちなみに『エコール』の原作はフランク・ヴェデキントの『ミネ・ハハ』。作者、変態でしょ。その変態のヴェデキントの原作で、変態映画監督ノエのパートナーが作った映画ですから、変態映画でないわけがない。


いえ、そのような予備知識などなくても、この映画をみれば、いずれ陰惨な事件が起こると予期せざるを得ないほど、不吉な出来事がつづくでしょう。いや、いまに怖いことが起こる、起こる、起こると、最後の最後まで緊張しっぱなしで、結局、なにも起こらなかったとわかるのは、最後になってからで、それまで緊張の極に達していて、もどしそうになったというかウンコしそうでした。いや、これは私が見た中で、もっとも怖い映画のひとつです。なにしろ、最後の最後になっても、怖いことが起こらないので、恐怖の期待が高まっていて、その鬱屈した期待が解放されることがないため、とことん恐怖の期待値が上昇してゆくからです。はっきりいって恐怖感の上昇は無限大なのですから。


しかし、これは私が怖がりでも、私が変態だからでもありません。映画そのものは、不気味な雰囲気も同時に出していて、物語の背後に、語られぬ闇の組織があることが暗示されていますよね。たとえば同じ題材で、ジョン・アーヴィン監督が『ミネ・ハハ』のタイトルで映画をとっています*1。ジョン・アーヴィンというと、私などは、どうしても戦争映画に連想がいって、『戦争の犬たち』(傭兵物*2)、『ハンバーガヒル』(ヴェトナム戦争*3)『プライベート・ソルジャー』(第二次大戦末期*4)の監督というイメージが強すぎで、どうして『ミネ・ハハ』なのかと不思議に思います。


ジョン・アーヴィン監督の『ミネ・ハハ』は、そんなにたいした映画ではんく、台詞は英語なのだけれどチェコで撮影されたイタリア映画で、イタリア映画としても60年代か70年代のイタリア映画という感じで、新しさを感じない。ただ、よいところは、『エコール』で、あるいは原作でぼかされている闇の部分を、はっきりと示していることです。少女たちが集められ教育をされる森のなかの不思議な学校は、実は……という話なのです。


つづく

*1:Mine Ha-Ha, dir. by John Irvin, 2005.

*2:The Dogs of War , 80.

*3:Hamberger Hill, 1987.

*4:When Trumpets Fade, 98 TV.