Potus

はっきりいって映画をみている場合じゃあないくらい追い込まれているものの、まあ映画館で見そびれたので『バンテージポイント』がDVD化されたのを機に、見てみることにした。90分の短い映画だし。


メイキングのところで俳優のひとりが脚本がorganicだと話していたら、なんと字幕では「自然な」と訳していて唖然。メイキングのほうは字幕も手抜きになってしまうのか。有機栽培じゃないんだから、「自然な」はないでしょう。organicには、「相互連関的」とか「相互にからまりあった、構成なり構造が凝っている」という意味がある。それならこの映画にぴったり。


結局、この映画が上映されていた頃、映画館では見なかったものの、私はそのかわり内山けんじ監督の『アフタースクール』というorganicな映画を、見ていたことになる。ただし『アフタースクール』は『バンテージポイント』のように時間が何度も同じところにもどったりしないから、似ているといえば、同じ内田けんじ監督が2004年につくった、もうひとつのorganicな映画『運命じゃない人』のほうともいえるのだが。


凝った作り方をする映画は、たしかに見ていて面白いが、結局、最終的にはよい作り物をみた爽快感と非現実感がせめぎあうということか。こうした作品は、構造そのものが内容となっていて、ある意味、究極の作品なのだが(外部にVantage Pointがない)、しかし、そのぶん主題や内容が空虚になってしまう。


9.11以後、テロとの戦いを口実に世界戦略をすすめるアメリカのやり方が罰せられるという面もないわけではないが、大統領暗殺も爆破テロも裏があるということを匂わせつつも、構造の面白さにすべて吹っ飛んでしまうという作品だった(ちなみに世界貿易センターだって飛行機が突入したからとって、ビル解体作業のときのように内部に爆薬を仕掛けてないかぎり、あんなふうには崩壊しないから、自作自演であることは、いまや常識化しているわけで、テロとの戦いの胡散臭さは誰もが感じているのだが、そうした政治性は、この作品にありそうで、まったくなかった)。


あと恥ずかしながら、この映画をみていて何度も出てくるPotusという言葉を知らなかった。手元にあった電子辞書で調べても研究社の大英和、ジーニアス大英和、リーダーズどれに載っていない。Oxdord Dictionary of Englishには載っていた。アメリカ大統領のこと。President of the United Statesの頭文字を並べただけの口語的表現。20世紀の初め頃から使われていた? 知らなかったのはちょっと恥ずかしい。大英和クラスの辞書なら収録すべき語だと思う。