パニック症候群

極度の高所恐怖症ではないのでだが、高いところは苦手である。いやこれは高所恐怖症ともいえないのだが。


午前中、湖のほとりに立っている。すこしゆくと小さな桟橋が見える。雨が降っていたが傘を差して、その桟橋の端まで歩いていった。べつに怖いとも思わない。小さな木の桟橋から仮に落ちても、水はせいぜい膝あたりまでだろう。怖くなる要因はなにもないのに、突然、足が震えてきた。なんか立っていられなくなって、さしている傘をほうりなげて、突き出ている木の杭にしがみつきたくなった。傘までは放り出さなかったが、実際に、震える足で杭にまでたどりついて片手の指先で杭にふれた。そうでもしないと湖に落ちてしまいそうだったので。かりにおちてもただ足が濡れる程度の深さでしかないのに。


結局、頭では怖がる要素はなにもないのに、突然、体が高層建築物の屋上近くの階の窓拭きをしているような恐怖感覚に襲われた。もう体の反応がコントロールできなくなった。


これは私の高所恐怖症のなせるわざというよりも、パニック症候群に近いのかもしれない。怖がる必要もないのに、体が勝手に怖がってしまう。世の中に怖いものはいっぱいあるが、同時に、怖くないと思っているものも多い。度胸が据わっているという問題ではない。怖くないと思っていても、自分でコントロールできないかたちで、怖くなるかもしれない。ということは世のなかすべてのものが怖いことになる。どんだけ怖がり、ということになって、これはなさけないぞ(昨日は熱い湯船が怖くなかったのに)。