錆びた黄金

前日にニコラス・ローグの映画に触れたので、補足を。テリー・ジョンソンのInsignificanceを、テリー・ジョンソン自身の脚本でニコラス・ローグが映画化した同名の作品(1985)は、日本では『マリリンとアインシュタイン』のタイトルで公開されたようだ。DVDがあるのかどうかは知らない。


ローグは80年代が絶頂で、90年代以降は、がっかりな作品ばかりで(なかでもコンラッドの『闇の奥』の映画化(テレビムーヴィー)には、ほんとうにがっかりした)、最近はどんな映画を作っているのか、作っていないのか、よく知らないのだが、その『マリリンとアインシュタイン』は、ローグ作品のなかでは、私にとってベスト5に入る。ベスト1はなにかというと、私としては、おそらく何回見ても飽きない作品としてEureka(1981)『ユリイカ』をあげる。


もちろんこれはローグ作品のなかでは評価が低く、優れた俳優たちを使いながら失敗作であるとされている。まあたしかにそうかもしれないが、その破綻ぶり、同じことだが、その予測のつかない展開、またさらに同じことだが、そのジャンルの混淆は、たまらなく面白いし、全体として酔える映画となっている(癒し系の映画ではないのだが)。


英米圏ではDVD化されている。日本では公開されなかったとあるが、私は日本で見たことがある。日本とイギリスの文化交流の年(イギリス年という催し物)に、イギリスを代表する監督としてニコラス・ローグが選ばれ、1週間くらい、ローグの映画特集をした。『パフォーマンス』(ミック・ジャガーが出ている映画)から『ウィッチ』まで代表作を上映した。私は毎日通えなかったが、すでに見ていた映画もあり、やなりはじめてみる『ユリイカ』には強烈な印象を受けた。ただそれにしても、90年代のはじめまでは、ローグは、イギリスを代表する監督のひとりだったのですよね。90年代以降の凋落を誰が予想しえただろうか。いまニコラス・ローグといっても、若い人は知らないだろう。


ちなみに『ユリイカ』は日本では、ビデオ化されていてもDVD化されていないのだが、そのビデオのタイトル、なんと『錆びた黄金』。あ、あ、あほか〜。鉄と違って黄金は錆びないのですよ。黄金は錆びないから、中世の錬金術では、黄金といっしょに不老不死の薬エリクシールを作ろうとしたのです。くすんだりするようなこともあるかもしれないものの、基本的には錆びない、錆びないから黄金なので、錆びた黄金は黄金ではないのですが。タイトルを作った人間の頭が錆びている。