半チャン・ラーメン

テレビで、女子大生がはじめてする天気予報でも、明日は雨でしたというメールをもらったので、そもそもそんなへんな番組があるのかと、なぜ女子大生が天気予報、それもはじめてといわねばならないのかと、唖然として、テレビをみたら、フジテレビの深夜番組で現役女子大生を集めて放送してたバラエティ番組「キャンパスナイトフジ」だった。とはいえ、私が見たのは終わりかけていたところなので、どういう番組なのか、わからずじまいだった。


そしてそのあと、ダチョウ倶楽部の寺門ジモンが「取材拒否の店」という番組でレポーターをしている。タイトルの通り、取材拒否の料理店に、秘密のうちに取材する番組のようで、2回めくらいらしいのだが、今回は、神田神保町のラーメン店だという。店主が頑固親爺で怖いとか、店が狭くて客は肩を寄せ合って黙々と食べるのだとか、チャーハンとかラーメンの味が濃厚だと紹介している。


私はグルメ番組で紹介される店はほとんど知らない(あるいはまったく知らない)といってもいいのだが、この店は珍しく知っているという気がしてきた。カメラは大通りからではなく、裏通りから入ってくるので、最初のうちは店の周囲の様子に既視感がなかったのだが、徐々に確信が生まれてきた。


ほんとうに取材できないのですかというスタッフに対して、寺門ジモンは、熊みたいな親爺なんだから、熊と取材交渉なんかできるかと話していたのだが、あっさりと取材OKとなった。ジモンちゃんにはこれまで世話になっているからという理由で。


店には確かに熊とまではいかないが、頑固そうな老人がチャーハンやラーメンを作っている。このおじいさん、まだ現役で元気なのだと嬉しくなった。たぶん神田神保町に本を買いに行く人なら、この店は知っているはずだ。しっかりとした昭和の王道的醤油ラーメンとチャーハン。神田神保町に行くことが少なくなって久しく、その店からも遠のいてしまったが、評判の店で、白山通りからみると、いつも行列ができていた。名物は、少なめのチャーハンと少なめのラーメンを合わせた半チャン・ラーメンで、客のほとんどがこれを頼む。私もそうだった。


ジモンちゃんは怖い頑固親爺だと言っていたが、しかし、まあ飲食店の商売のプロ根性といいえばそれまでだが、決して怖い老人ではない。私が学生の頃、この店で食べていたら、女性客が入ってきて、いきなり冷やし中華をたのんだ。夏だったのだが、しかし、その店には当時(今はどうか知らないが、今でもそうだろう)、冷やし中華は、メニューになかった。一瞬に、店のなかに緊張が走った。夏なのに空気が凍りついた。


半チャン・ラーメンが有名な評判の店なのに、何も知らず、ぶらっと入ってきて、しかもラーメン屋だからどこでも同じだろうと、メニューも見ずに、メニューにない冷やし中華を注文するとは。「うちには冷やし中華は置いてねえんだ、とっと帰れ」と親爺(いまよりもずっと若かったわけだが)が言うかと思ったら、沈黙のあと、まあしょうがないかという風情で、その親爺が、なんと冷やし中華をつくりはじめたのだ。


その女性客が、可愛かったり、美人だったりして、思わず、でれっとしたということではなかった。その女性客は、いま述べた属性とは、まったく関係のない存在だった。断ったら暴れそうだという女性でもない。まあ、そういう勘違いの客も多いのかもしれず、材料は一応揃えていたのかもしれないが、とにかく、客の間違いを指摘せず、望むものを料理してやった、その親爺は、決して、ただの頑固一徹の熊ではなかった。