人間の運命2


しかしショーロホフは、ストーリー・テラーで、また戦争や戦争時代を作品の舞台にすると俄然迫力というか感動力が増す。いうまでもなく、その代表作『人間の運命』は、そうした作品である。短編というよりは中編くらいの分量がある作品で、私は自分の本棚にこの本がないので、中学か高校の時、学校の図書館で読んだのだと思う――たぶん筑摩書房世界文学大系かなにかで。いやあ、ほんとうに泣ける話で、実際、読んで泣いた。第二次世界大戦に従軍したソ連の兵士と、孤児となった少年との交流を描くもの。


この作品は、実際に、映画化されたこともある。そのソ連映画をテレビで放送したとき、昼間だったと思うが、私は、たまたま、母親と二人で見ていた。NHKかなにかで放送したその映画は、私の記憶のなかではモノクロの映画だったが、カラーだったのかもしれない。私も母も、作品に引き込まれて黙って見入っていたが、主人公の兵士が、少年を乗せて運転しているトラックを止めたところで、あ、これから話すのだとわかって、もうそれだけで、私は泣きはじめてしまった。母親には気づかれずに。映画を観終わったとき、母親も泣いていたが、私のほうが先に泣いていたことは気取られなかったようだ。