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電話保持

ネットの映画情報サイトには、観てよかったコーナーがあって、まあだいたい予想通りの作品が並ぶのだが、突如『コネクティッド』という香港映画がランクインしてきた。どんな映画かと思うとベニー・チャン陳勝木の映画だいう。警察故事シリーズ? 調べてみると東京では2館でしか上映していない。有楽町シネマと新宿武蔵野館。有楽町シネマは、住んでいるところから地下鉄で一本だが、大学の帰りに立ち寄るのとちがって、少し時間がかかる。自宅からなら、小さいけれど近めの新宿武蔵野館に行くことにした。


朝から翻訳をして、3ページ翻訳したところ、その部分をコンピュータ上で消してしまった。私の操作ミスだろうが、どこに行ったのかわからない。散々探して、どうしても見つからないので、しかたなく、もう一度翻訳することにした。二度目には、さすがに早くて、こなれた役になったが、最初の時のほうが上手く訳せたところもあったのだが、それをどうしても思い出せない。さすがに無駄な時間を使ったので、本日の作業はこれでやめることにした。


で、見終わったあと、たしかにアクション・シーンや予想通り圧巻なのだけれども、これだったら『トラスポーター』(ん?)や『96時間』(これから公開)と同じようなもので、どれも見てよかったと思う人がいてもおかしくないが、これだけが傑出しているのかどうか、それはよくわからない。


ただハリウッド映画『セルラー』(2004)のリメイクだということだった。『セルラー』はテレビでちょっとみただけで、そんなに印象も残っていないため、リメイクと言われても期待薄だったら、むしろ『セルラー』と比べることで、この映画の面白さがみえてくるというのは面白かった。


そういえば『セルラー』って、確か、犯人役はジェイソン・ステイサムではなかったか。ああ、私は日曜日にテレビでジェイソン・ステイサムの『トランスフォーマー2』を見て、月曜日にジェイソン・ステイサム主演の『カオス』を思い出し、火曜日にジェイソン・ステイサムが犯人役の『セルラー』のリメイク版を見ている――どれだけジェイソン・ステイサムと因縁があるのか。こうなったら『トランスフォーマー3』を見に行くしかないと思ったものの、そうなるとジェイソン・ステイサムに惚れてしまうやろ。やめとこ。


セルラーCellular(2004)のほうは、高校の生物学教員であるキム・ベイシンガーが突然謎の集団に拉致・監禁されるが、壊された電話を組み立てて外部と連絡をとる。連絡がとれた相手はお気楽なカリフォルニアの若者(いまでは『ファンタスティック4』のとでもいうべきか、クリス・エヴァンズ扮する)で、突然、事件に巻き込まれて、わけのわからないまま、最終的に謎の集団の犯罪を暴き、彼女を救出することになる。


この映画、キム・ベイシンガーは熱演だけれどもミスキャストのような気がするし、悪役のジェイソン・ステイサムは決まっているが、いまひとつアクションに切れがない。というか設定の面白さと同時にその荒唐無稽さに映画そのものがはにかんでいる、あるいはアイロニックな感情を抱いているところがあって、一途にアクションに専念するというよりも、プロットを一歩引いて眺めているところがあり、定年を間近に控えた警官役でウィリアム・メイシーが出ているのだが、どちらかというとそのメイシーが出ていた、べつの犯罪映画でコーエン兄弟監督の『ファーゴ』Fargo(1996)を思い出させるところがある。プロットの不条理さを自意識的に前景化せんとする一歩手前のところにいる。たとえばイギリス映画『ホットファズ』なんかでも、ある種パロディまがいに使われている横っ飛びになって拳銃を発射するというアクションは、ウィリアム・メイシー扮する警察官がそれをすると、やはり、どうみても、パロディあるいはパスティーシュでしかないだろう。


一方『コネクティッド』(2008)は、ベニー・チャン監督のアクション満載で、どちらかというと『ダイハード』に近いものとなる。実際、ビルが破壊され紙幣が雪のように舞うシーンは『ダイハード』への、まあオマージュだろうし、割れたガラスの破片が刺さるというのも『ダイハード』である……てゆ〜か、間違えていた、これは同じベニー・チャン監督の『香港国際警察――インビジブル・ターゲット』(2007)のほうだった。まあ、明確なオマージュはないとしても、この『コネクティッド』も『ダイハード』的な方向へ向かっている。


『コネクティッド』の最後のエンドクレジットのところで、俳優や、スタッフの名前が携帯電話の画面に出るところは、スタイリッシュで感動する観客もいるようだが、もちろん、これは『セルラー』のエンドクレジットを踏まえている。そして実際のところ、ジャッキー・チェンが久しぶりに香港映画に主演した『香港国際警察――ニューポリスストーリー』に比べると、スタイリッシュ度は少ない。


実際のところ『香港国際警察』にしても、『インビジブル・ターゲット』にしても、たとえばジャッキー・チェンが主人公(『香港国際警察』)だと、どうしてもカンフー映画になってしまうし、また強い相手に二人で立ち向かう(『インビジブル・ターゲット』)というのも、時代物のワイヤーアクションのカンフー映画によくある設定で、アクションへの動機が、ジャンル的約束事以外にないということになってしまう。同じベニー・チャン監督の『ディバージェンス(ママ)』(2005)は、主要人物が比喩的に二役になるという主題を扱い、新機軸を出そうとしていたが、ちょっとめそめそしすぎのところもあり、それがアクションと齟齬をきたしていた。


まあ、いずれにせよ、ハリウッド映画のリメイクによって、アクションに新たなリアルな動機が生まれ、現代版カンフー映画にならずにすんだのは評価できる。またリメイクによって、みずからの存在意義を高めるということでも、成功していることは確かだろう。


セルラー』と異なり、主人公の女性はロボット会社の社長ということで、ガジェットをいじるのは得意ということになる。また携帯電話で連絡を取られた男は、気の弱いサラリーマンという設定であり、拳銃を持ったこともない素人であるという設定もアクションのリアル感を増している。ただしこの男、借金の取り立てて業務に関わっていて、ギャングまがいの取立て屋にくっついて仕事をしているというのは、なにか暗い設定でもあるのかと思ったら、これは最後まで活かされることなく、ただ、取立て屋の一人が、拳銃を持っていて、それがたまたま主人公の手に渡るという、主人公に拳銃を持たせる設定のためでしかなかったようだ。拳銃の所持が認められているアメリカのカリフォルニアと違い、香港では一般市民は拳銃を持っていないし、触ったこともないので、しかたなくこういう設定にしたのだろう。


あと犯人グループは『セルラー』では、悪徳警官たちだったのだが、『コネクティッド』では悪役は国際警察となっている。そもそもベニー・チャンの他の映画の日本での題名『香港国際警察』にしても、原題は『警察故事』で、英語名はThe Police Storyで、どこにも「国際」はない。なぜ日本語のタイトルに国際警察とつけたがるのかは不明だが、今年見た映画『ザ・バンク』からもわかるように、国際警察機構には逮捕権はなくて、『コネクティッド』のように、国際警察機構の人間が、容疑者と思しき人物を地元の警察の立会いもなくて病院から連行するなんてことは絶対にありえない。もとの『セルラー』のようにただの警察官にすればよかったと思うのだが、なぜ国際警察にしたのだろう。


あとベニー・チャン監督の映画では、必ずメランコリックな場面があって、それが激しいアクション場面と交互に示され、メリハリをつけられることになるのだが、この『コネクティッド』では、基本的に、常に犯人グループに先を越されて目的を達成できない主人公が、メランコリーに陥る前に、つぎからつぎへと新たな目標が生まれてくるため、休んでいる暇はない。


また軽自動車でバスを貫通する場面があるが、これは強化服を着た二人がパリの路上で、バスを貫通する『GIジョー』の場面と比較すると、ベニー・チャンの映画のほうが迫力がある。