R&J

後期の授業で『ロミオとジュリエット』を読んでいる。授業中には、作品の録音CDを少しずつ聞いているのだが、今回はケンブリッジ出版局から出しているCDで、ずいぶん前に購入したのものだが、それを使うことにした。


一言で言えば、演出が舞台を再現するというよりもラジオドラマ的なので、戯曲の理解には必ずしも有効ではない。舞台では朗々としたデクラメーションが多くなるのだが、このCDでは、舞台では絶対に聞こえないくらいのぼそぼそ声であったり、会話の速度もかなり速い(舞台だったら大きな声で話すので、通常の会話よりもすこし遅くなるのだが)。それでも全体で2時間50分のCDである。やはりこの作品は2時間では収まらない*1


それとはべつに、以前気づかなかったのだが、今回、ロミオとジュリエットを、マイケル・シーンとケイト・ベッキンセールが演じていることがわかって、びっくりした。ふたり夫婦じゃん。まあ、このふたりが仲良くなったのは、このCD作成のための録音作業をとおしてではもちろんなく、たぶんアンダーグラウンド・シリーズに共演してからだと思うのだが、いまからみるとこのCDは豪華キャストである。このCDでは、乳母をフィオーナ・ショーが演じていることも特筆に価する。


ロミオ役のマイケル・シーンは、たとえばヒース・レジャー主演の『サハラに舞う羽』(原題は臆病者に送られる四つの羽を意味するFour Feathers)では、ヒース・レジャーに救出される士官の役だったし、レオナルド・ディカプリオ主演の『ブラッド・ダイアモンド』にも悪役で出ているが、なんといってもマイケル・シーンを有名にしたのは『クィーン』でトニー・ブレアを演じたときだろう。あと最近作では『フロストVSニクソン』のフロスト役。


ちなみに、あのマイケル・シーン扮するフロストは、日本での公演にも影響を与えているのだが、あのフロストは、「みのもんた」みたい役で、実際のフロストとは全然違う。私もイギリスにいた頃は、テレビでフロストをよく見ていたので知っているが、あのフロストが、昔はバラエティーショーの司会もしていたというのは、正直言って驚いた。映画版のマイケル・シーン扮するフロストは、バラエティーショーの司会もやりそうな感じだが(みのもんただと私が感じたのもそのあたりが原因である)、実際のフロストは、めがねをかけた、神経質で気難しいそうな男で、社会問題、政治問題といった重たい話題のインタヴューしかしないのかというを印象をもった。映画ではバラエティショーの司会しかしない男が、アメリカ大統領にインタビューするという意外性が面白かったのだが、その後の政治家にインタヴューするのがぴったりの感じのフロストしか知らない私は、あんな軽薄なフロストがあったのかとそちらに驚いた。


またマイケル・シーンは、実際のフロストにはまったく似ていないのだが(いまはDVDが出ているので、その特典映像などで本物のフロストが顔を出していると思うのだが、本物のフロストとマイケル・シーンは似ていない)、インタビューする時の声は、フロストに似せてある。いやフロストそのものであって、眼をつぶって聞いていると、ほんとうにフロストが話しているかと思うくらい、よく似ている。映画でもマイケル・シーン/フロストが仲間と話しているときの話し方と、インタビューしているときの話し方が違うことに気づくかもしれないが、あのインタビューしているときの話し方と声、あれはまぎれもなくフロストである。


いっぽうケイト・ベッキンセールは――南極物語(11月11日)に続く。

*1:シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』では冒頭のプロローグで口上役が、2時間の芝居と宣言する。