日本アカデミー賞

アカデミー賞にはグランプリというのがないので、どの映画がその年度で最高の栄誉を獲得したかは、わからないのだが、まあ、日本アカデミー賞の場合、今年度は『沈まぬ太陽』がグランプリということだろう。


沈まぬ太陽』が受賞したことについては、感慨ぶかいものがある。公開当初というか、公開初日だったか、直前だったか、主役の渡辺謙が、舞台挨拶だったかインタヴューだったかで涙を流したのも、たんにこの長編映画をつくったときの苦労を思ってのことだけではないだろう。


この映画の受賞、あるいはそもそも公開そのものが、日航の凋落を意味している。日航の鶴が飛ぶ鳥を落とす勢の日航全盛期において、こういうことは考えられなかったのだ。いや、日航のメディア操作の伝統は完全に消えてはいなくて、この映画も日航の妨害で公開が危ぶまれていた時期があると聞いている。実際、山崎豊子の原作そのものも、日航の労使ともに反感をかったという歴史もあるようだから。


くりかえすが、『沈まぬ太陽』が、公開されただけでなく、日本アカデミー賞を受賞したこと自体、日航という太陽が沈んだという現実の証である。しかし、この映画は、ひどい環境のなかでせいっぱい頑張ってきた会社人間の悲哀と喜びを描く日航批判の映画であるはずだったが、日航が弱ってしまうと、主人公が日航そのものに見えてしまうことも事実で、その意味で、この映画は、日航批判から日航応援へとかわってしまったところがある。これが歴史のさらなるアイロニーかもしれない。