死角―ブラインド・サイド


最近というか春休みには、両側の席が埋まっている、ほぼ満席状態で映画をみることが多かったので、久しぶりに、シネコンで『しあわせの隠れ場所』The Blind Side(2009)をみた(ポイントがたまっているので今回は無料)。劇場に入ったら、女性が一人で、あと私だけ。このまま二人の貸切かと思ったが、予告編がはじまるころに、3人くらい増えて、あと老夫婦が来た。久しぶりにゆったり見ることができた。これくらいの人数で、この大きさの上映シアターというのは、もったいない気がするが、たとえば昨日水曜日は、女性が1000円の日なので、観客がぐっと増えるのだろう。明日でこのシネコンの上映は終るのだが、ある程度の観客は入っているのかもしれない(ちなみに老夫婦(としておく。ちがうかもしれないが)、私のすこし後方の席で、映画がはじまっても話している。全部の老人ということはないが、映画館で、マナーの悪い老人は多い。そのうち老夫婦は、途中で帰って行った。まあ静かになってよかったのだが、しかし帰ることはないだろう。最後までみれば面白いく、心地よいと思われる感動にひたれるのだから)。


『しあわせの隠れ場所』をみて、ふたつのことを考えた。ひとつは主演のサンドラ・ブロックについて。もうひとつは苦しむこと/苦しまないことについて。本日は、サンドラ・ブロックについて。


私は映画やテレビドラマのなかではじめてサンドラ・ブロックに会ったのは、『600万ドルの男』と『バイオニック・ジェミー』がらみだった。Bionic Showdown: The Six Million Dollor Man and the Bionic Woman (1989)(日本語のタイトルは忘れたので調べたところ『バイオニック・ウォーズ――帰ってきた600万ドルの男とバイオニック・ジェミー』だった)で、両シリーズが終った後、たぶん何周年かの記念特番として作られたテレビ・ドラマで、日本で見ている。物語そのものは忘れてしまったが、すでに歳をとって引退しているか、とくに活動はしていないスティーヴとジェミーの二人が、新世代の若いバイオニック・マンやバイオニック・ウーマンに対して、時に反発し対抗心を燃やしながら、協力し、スパイ活動をするもので、若い世代に対して身体能力で劣るスティーヴとジェイミーだが、年寄りの叡智でもって事件を解決するというような話だった。


その若いバイオニック・ウーマン役が、サンドラ・ブロックで、資料で調べると、彼女にとって映画(テレビ)出演の2作目のこのテレビ特番は、おそらく本人としてみれば思い出したくない作品かもしれないが、若い肉体を誇示して飛び回っていて、アスリートの役だったようなこともあるが、かなり印象的だった。そして記念的なのは、彼女がリンゼイ・ワグナーと共演したことで、日本でも人気のあった『バイオニック・ジェミー』終了後、ワグナーは、メロドラマの女王となっていく−−やたらとテレビ・ドラマに出まくっていた(残念ながら、日本では放送されたことはなかったと思うのだが、英米圏に行くと、彼女がメロドラマの女王であることが納得できる)。そしてやがてサンドラ・ブロックはこの後、ラブコメの女王と化してゆく。『スピード』でブレイクしたとか言われる彼女だが、『スピード』以前にも、たとえば『デモリション・マン』といったSF映画でもシルヴェスター・スタローンと共演していたので、すでにじゅうぶんにキャリアは積んでいた。ブレイクしていたのだと思う。


映画は、最後のエンドクレジットのところで実在のフットボール選手マイケル・オアーと彼を援助したリー・アン・テューイ(サンドラ・ブロックの役どころ)とその家族の写真が示されてけっこう興味深いのだが、昨年、映画『ミルク』のエンドクレジットを見た時以上の驚きがあった。


通常、俳優とそのモデルとなった現実の人物を比べれば、当然、現実の人物のほうが貧相に見えるのだが、『ミルク』の場合、現実のモデルとなった人物も、役者たちに負けていなかったのだが、今回の映画では、現実のモデルとなった人たちのほうが、どちらかというと容貌という点で、濃い人物が多くてびっくりした。サンドラ・ブロックも金髪にしていると、彼女特有のシャープさが消えて、モデルの人物に負けてしまう。またマイケル・オアーも映画のなかでは熊というか鈍獣で、これでよく高校の学力テストで成績がアップしたと不思議に思うのだが、現実のオアーは、体が大きなだけでなく、頭もよさそうで、好成績をとってもおかしくなさそうな感じがする――鈍獣というイメージはない。


まあモデルのほうが、濃すぎて、サンドラ・ブロックをはじめとする役者たちの演技と雰囲気が、ちょうどいいと。


なおサンドラ・ブロックはこの映画でアカデミー賞主演女優賞を獲得した。と同時にラジー賞Razzie Awardも受賞したのだが、うかつにも彼女が同じ映画でアカデミー賞ラジー賞をもらったのだと勘違いして、『しあわせの隠れ場所』は、彼女のベストの演技ではないと思うし、みかたによってはラジー賞かもしれないと、上映中思っていた。もちろんラジー賞は、この映画ではなくAll About Steve(2009)という、誰も知らない(今後日本でみることもない)映画での受賞であって、私の勘違いだったのだが、でも、この映画で、ラジー賞はないとしても、アカデミー賞もおかしいでしょう。


だって、もしこの映画でアカデミー賞をあたえるのだったら、文句なく、助演男優賞部門で、SJを演じたJae Headしかいないのだから(理由?――見ればわかる)。