Walking Shadow

タイタンの戦い


3Dの『タイタンの戦い』をみる。まあ、レイ・ハリーハウゼンがプロデュースした『タイタンの戦い』(1981)のリメイクとしてみると、プロデュースそのものもリメイクしているところが面白い。前作でもゼウス役のローレンス・オリヴィエをはじめとして、イギリスの俳優が多数出演していたが、今回もリーアム・ニーソン、レイフ・ファインズら英国系の俳優は出演していて、配役における英国人俳優の多用というコンセプトは同じである。


しかし、ハリーハウゼンの、いわゆるコマ撮りの特撮は、私が物心ついていた頃でも、なんとなく古い(あるいは、それだけに芸術性すら感じられた)ものだったが、1981年の段階でのコマ撮り特撮映画というのは、すでにスターウォーズ第一作(現在ではエピソードIVの位置づけだが)が1977年に出ていた段階では、圧倒的に古いし、私は見ていないことを発見した。テレビでの再放送かなにかでみたかどうかもあやふやである。


今回のリメイクは、3Dの最新技術を使っている点では、すばらしいが、それ以外に、正直なところ、あまり興味はもてなかった。将来的に、2Dで映える撮り方と3Dで映える撮り方とは分化あるいは対立することが予想されて、もし3Dスペクタクル・エンターテインメント映画が多くつくられるようになると、そのへんをどう折り合うのかむつかしいところかもしれない。また3D化の過程で、たとえば映画に置けるディープフォーカスという神の視点は消えてしまうとしたら、なんだか惜しい気がする。


映画の内容は、ついには神話すらもアダプテーションするようになったかという点で、感慨深いというよりもあきれる。ペルセウスメデューサの首を取る時、盾の鏡面に顔を映し出して、メデューサそのものを石化させるという神話の設定は、この映画では、まったく無視され、べつの設定にとってかわられている。前作に登場しなかったハデス(レイフ・ファインズが演じている)が登場している。


またペルセウス守護天使的存在としてイオ(イーオー)が登場するが、彼女がペルセウス神話にからんでいることは、私にとっては初耳で、興味深いかどうかよくわからない。まあ途中で死んでしまうし。ちなみにイオを演じているのはジェマ・アタートン。『慰めの報酬』でのストロベリー・フィールズは、まあちょい役で、すぐに死んだし、『パイレーツ・ロック』には出演していることに気づかず。今回の『タイタンの戦い』では、若いのか年取っているのかわからないところもあるが、『プリンス・オブ・ペルシャ』にも出演していて、いま予告編で彼女の姿をしっかりみることができる。この映画では、一見ふけてみえる彼女だが、まだ若い。またよくみると変に魅力がある女優だとかった。


あとドラコ隊長のマッツ・ミケルセンは、ストラヴィンスキーだ。彼はこういうマッチョな役のほうが似合うようにも思うのだが。なおウィリアム・ヒューストンというイギリスの俳優をカエル君と呼んで好んでいる女性がいたのだが、彼が出ていることはまちがいのだが、どの役かはわからずしまい。


もちろん主役のサム・ワージントンについて語らねばならないが、昨年と今年になって出演映画を3本連続してみることになって、どれも人間と異物との合体という役であることに驚いている。準主役でもある『ターミネーター4』では、人間の心をもったマシンとして人間的精神を発揮し、主役の『アバター』では地球人と異星人との中間的存在であり、最後には異星人として戦い、異星人になり、そして今回は神と人間との中間的存在であり、人間として戦う。おんなじ役ではないか。いずれの場合も、迫害される側にたって戦うヒーローである。


だがこのワージントンについては、どこかで見たことがあるという思いを捨てきれたなかったのだが、それが。なぜだが突然わかった。彼はマクベスだった。


私はシェイクスピアが原作のアダプテーション映画は、できるかぎり見るだけではなく、DVDでも集めているのだが、ありました。2006年オーストラリア映画マクベス――ザ・ギャングスター』(原題Macbeth 監督Geoffrey Wright)で、彼は主演のマクベス*1。手元にあるDVDをみると、オーストラリア・フィルム・インスティチュートにおいて、衣装デザイン賞と、プロダクション・デザイン賞を受賞している。この賞からみると、作品賞とか主演なんとか賞とか監督賞といったメインの賞ではないのだが、なにか賞をあげないと惜しいという作品評価がうかがえる。しかし、私の見る限り、そんなすごい映画ではない。シェイクスピアの『マクベス』の世界をギャングの抗争に世界に移し変えたというだけである。


いま香港の映画監督ジョニー・トーの作品を上映しているが、それこそ、『エレクション』2部作のジョニー・トー監督にでもとらせたら、劇中に、なにか得体の知れない儀式めいたものもの入れて、ギャングの抗争映画として、はるかに素晴らしい完成度を誇る作品になったのではないかと思われる。


で、なぜ私がこの映画に出ているサム・ワージントンに気づかなかったかというと、やはりはじめてみる俳優だったからであり、しかも、DVDでは「サム・ワーティングトン」と表記してあって、表記から見ると別人である(ただそれにしても、DVDをいま見直すと、キャメロン監督のSF大作Averterの主演が決まったと書いているが、このDVDを見た頃は、それってキャメロンの何としか思わなかった)。しかし、最大の理由、それはこのマクベスを演ずる彼が長髪だからである。最近三作では短髪の彼だが、この映画『マクベス』では長髪だった。だから気づかなかったのだ。ワージントンのファンならぜひ、『マクベス』ご覧あれ*2

*1:なお映画はオーストラリア映画。ワージントンはイギリス生まれだがオーストラリアに移住したため、オーストラリアの俳優としてデビューしている。

*2:ちなみに、これをみた映画館は新宿ピカデリー。大学に行く前の午前中に観たのだが、この時間帯の映画館は、高齢者が多い。私はカウンターで「一般一枚」とはっきり言ったつもりだが、店員が復唱するとき「シルヴァー一枚」と言ってしまった。すぐにその店員は「一般一枚」と言いなおしたのだが、それにしても、いくら高齢者が多いとはいえ、まちがえるな。ショックのあまり、一日中落胆していた。この映画に対する評価がお座なりなのも、落胆していたからかもしれない。