9 lives

5月14日のシルヴァーの落胆から立ち直れないまま、再び、新宿ピカデリーへ。日曜日の午後なので、若い人たちが多い。たしかに金曜日の午前中とは年齢人口が違う。金曜日の午前中は私は若造だったが、今日はシルヴァーである。映画会できている。幹事は観る前から、作品の選択をまちがったと恐縮していたが、たしかに、なぜという思いが強かったが、まあ、ひとりでは見に行かない映画も、こうして映画会として見にいけるのでよい経験である。劇場は満席で、はっきりいって蒸し暑い。若い人が多いが、年齢層には幅があるように思われた。男性と女性、とくにめだってどちらが多いということはなかった。


このアニメ映画『9(ナイン)9番目の奇妙な人形』(2009)は、時代劇SFだと思った。時代劇SFといっても『銀魂』じゃないよ。もとの短篇アニメ『9』はみていないのだが、麻袋でできた奇妙な人形が、巨大なマシンとひたすら戦い、戦いに勝ったあと、仲間の人形たちが昇天してゆくという映画らしく、台詞も説明ものないぶん、シュールな味わいのアニメで、それこそチェコの黒アニメ(なんじゃいその言い方は!ジョニー・トーの黒社会というのが頭に残っているのか)を髣髴とさせるようなものだった。チェコのアニメは、ストップモーションのコマ撮りアニメで、それこそ芸術性の高いものだが、それに通ずる要素があるということだ。


しかしそれを長編にすると、いろいろ説明が必要となる。ちょうどプロデューサーのティム・バートンが監督した『アリス・イン・ワンダーランド』が、アリス物語にコンテクストをしつらえるものであったが、今回も、短篇版で示された不思議な世界に、コンテクストを設けるかたちになった。そしてそのコンテクストとは。


廃墟となった世界の町並みとか壊れている自動車などの姿から、これは現在の21世紀の世界が破滅した姿ではない。手がかりとなるのが、ひし形戦車。第一次世界大戦で使われた戦車(その後、第二次世界大戦では使われることはなかった)で、その残骸がみえる。となると時代は、第一次世界大戦からヒトラー台頭あるいはそれ以後の第二次世界大戦前後ということになろうか。この時期に驚異的マシンが発明され、独自のシステムとなったマシンは次々と戦闘マシンを生産、人間との戦いになり、人間を圧倒、マシンの支配が完了したかにみえるが、マシンも共倒れになったようだということだろう。


さらにいえば麻袋にボタン、て昔の手持ちカメラの絞りのような目、そしてファスナー(ジッパー)で閉じられる身体。魔法じみたかたちで魂を吹き込まれた9体の人形というのは、どうみても、21世紀のSFの発想から生まれたものではない。それはあきらかに第一世界大戦前後の発想だろう*1。そしてそのぶんだけ、ナチスの台頭による時代のなかで、生まれたであろうダーク・ファンタジー、それがこの映画だということになる。このコンテクストは、ある意味、神秘的であった世界を、不条理な暴力と政治に蹂躙される世界に変えた。そしてそこに、ダークファンタジーの背後にある人間の絶望とかすかな希望をのぞかせる。その意味で、まあ、ファンタジーに人間的要素を加えたといえるだろう*2。まあちょうどナチスの台頭をみながら、構想されたチャペックの『山椒魚戦争』のようなものかもしれない。



映画が終ったと、若い観客たちには、この映画は、ミュージカルだと思ったとか(それは『ナイン』)、あるいは宇宙人が移住させられる話かと思ったとか(それは『第9地区』)、まちがえたと話している若者たちがけっこういたが、まあ、ネタでしょう。誰がまちがえるかい。もっとも何も知らずに、誘われたままに映画館に来てしまったという観客もいたかもしれない。とはいえ、これで私は満足だった。9シリーズの映画、『ナイン』と『第9地区』とこの『9』。全部見たぞ。これも幹事のおかげである。感謝したい。


で、幹事は、ほんとうは『オーケストラ』のほうがよかったと、お詫びのしるしに、自分で見てきた『オーケストラ』のパンフレットを全員に配った。まあ、そこまでしてもらわなくてもよかったのだが、せっかくだから、いただくことにした。パンフレットとともに、それが上演されていた東急文化村Bunkamuraの宣伝のチラシもあって、その表紙は、『オーケストラ』に出演中のメラニー・ロランがバイオリンを引いている顔のアップだった。


しかし、彼女は、タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』の印象が強すぎて、顎でバイオリンを支えて演奏している姿をみても、そのバイオリンが、マシンガンに見えてしまうと語ったところ、誰にもうけなかった。残念。

*1:ただしボタン型電池が登場するのだが、あれは20世紀の前半ではなく、後半の発明品なので、矛盾するが、まあ、見てみないふりをする。

*2:ちなみにこの映画は、日本ではどうか知らないがR15の国が多い。え、そんな。『銀魂』に比べたら、血も出てこないし、子供にみせてもいいのではないだろうか。子供が怖がる?『銀魂』のほうが、はるかにこわいぞ。