『オセロー』の復習1

宝塚篇
昨年、関西に行く用件があり、そのとき、宝塚観劇に誘われました。しかもそのとき、チケットが一枚余ったと言われたので、誰かいっしょに行く人はいないかと聞かれたので、私は急遽、東京にいた大学院の指導生(宝塚ファン)に声をかけました。迷惑かとも思ったのですが、喜んできてくれました。


聞くと、宝塚ファンで、宝塚の演出部の募集に応募して、面接試験まで行ったこともあるとのこと。その時は、「せっかく**大学の院生をしているのだから、演出助手の肉体労働などで苦労しなくても」と言われて、諦めたそうですが。「え、それって、いつの話?なに修士課程在籍中に応募した?聞いてないぞ」と驚いたのですが、彼女の実家(東京)が、宝塚劇場の近くにマンションをもっていて、そこで寝泊りできる。そして宝塚の熱心なファンであり、呼んでもらえありがたいと、感謝されました。


結局、彼女は、当然のことながら、私たちのグループでは一番宝塚に詳しく、当然、周囲を圧倒。ちなみに、宝塚(花組)の演目は、ベル薔薇の、スピンオフ作品というか、アンドレを中心に物語をあらたにつくったもの。もちろんアンドレの運命は原作と同じ。しかし新たに物語をつくった部分もあり、力点もことなってくる。トップの真飛聖が、アンドレなのはいいとして、ネクストが、近衛隊のアラン、そして女役トップが、アンドレの幼なじみマレーズ(引退した桜乃彩音)となって、オスカルもマリーアントワネットも、背景的に人物になっているのは、興味深い。


このアンドレ篇について、一言。アンドレが子供の頃、大きくなったら結婚しようと約束していた幼なじみがいます。この場面、プロヴァンスの田舎という設定で、それらしい舞台装置になっているのですが、いきなり台詞が鹿児島弁でびっくり。まあ南の地方の方言ということで、鹿児島弁になったということでしょうが、客席から笑い声がもれるほど、違和感あり。方言の扱いはむつかしい。


物語は、子供の頃から一転し、大人になってからオスカルのもとで、近衛隊に入隊したアンドレを慕い、プロヴァンスから、幼なじみのマレーズがやってくるが、なかなか会えない……ということになります。


問題は、宝塚の公演では、老人、老女は、演ずることができても(専属の男役・女役がいる)、残念ながら子供は演ずることができない。子役を使うことができないので、子供の頃のアンドレとマリーズの場面は、いくら若手の配役にしても、ふたりが高校生くらいにしかみえない。だから、途中でわからなくなってしまいました。たしか原作では、アンドレがオスカルの家にやってくるのは、まだほんの子供の頃ではなかったか。そのころには男勝りのオスカルへの恋心は、アンドレにはめざめていない。もちろん、この公演では、たとえばアンドレとオスカルが結ばれるのは屋外ですが、原作では館の中でした。その種の変更・変化かと思ったのですが、どうもそでもないようです。先ほどの大学院生に確認してみました。アンドレがオスカルの家にやってくるのは、まだ小さな子供の頃だったのでは、と。


そうです、と。つまりあのプロヴァンスの場面は、高校生のカップルにみえるかもしれないのですが、一応、どんなにそうは見えなくても、子役のいない宝塚ではしかたがないことで、3歳から6歳くらいの間の子供のやりとりに見立てるのですといわれた。それで謎が解けました。高校時代に将来を誓い合った二人のうち、男のほうは、女友だちと再会しても、結婚のことはすっかり忘れているわけで、これはひどすぎるのでは、人間のくずかと思っていたのですだが、幼い頃の約束なら、それを覚えているという女の子のほうがけなげだし、またアンドレが忘れていても、彼に罪はまったくないことになります。


閑話休題
宝塚に詳しい人には説明するまでもないのですが、現在、宝塚公演は、最初がドラマ。休憩をはさんで、後半はレヴューがあります。ふつうレヴューは、動きが派手で華やかな演目と、そのあとに、ゆるやかな歌と踊りをつづけ、いうなれば緩急をつける演出をするのですが、今回のレヴュー『Exciter!!』は、いけいけというか、激しい歌と踊りをたたみかけてくるもので、ファンによれば、珍しいということでした。


そのせいかどうか、たぶんそのせいでしょう。激しいレヴューにあおられたと思われるのですが……。公演が終わったあと、広いロビーに出て、帰りを急ぐ私たちの、すこし右前方に、倒れている女性が。一瞬、なんだかわからなかったのですが、その女性は、なにやら苦しんでいる……。