ミステリアス・スキン 自作解説2

 まだ自作解説をひきずっているのか、いい加減にせよと非難されそうだが、追加をすこし。あの小説はパロディあるいはパスティーシュかもしれないが、そのまま読むと中年の男性の少年への欲望を対象としたもので、不気味なペドフィリアに同性愛がからみ、ホモフォビア的作品である。そうとられてもおかしくない。
 ここで思い出すの少年愛と同性愛をからませたグレッグ・アラキの映画『ミステリアス・スキン』(日本で公開されたかどうか不明*1)で、小学生の頃の記憶に空白を抱える主人公のひとりが、空白を埋めるべく調べてゆくと、野球コーチの変態男性に性的にいたずらをされた経験が浮かび上がってくる。彼はその経験をトラウマとして成人するのだが、同じく性的いたずらをされた友人のほうは男性のプロスティチュートなっている*2
 このままだと、この映画は人生を狂わされた二人の若者の境遇を描きながら、ペドフィリアの同性愛犯罪者を告発するという、ホモフォビア映画にすぎなくなる。もしグレッグ・アラキがカミングアウトしている日系のアメリカ人監督であることを知らなければ。
 そうグッレグ・アラキのこの映画は同性愛者のアイデンティティ形成におけるペドフィリア的トラウマの存在とその内的風景を冷徹にリアルに描き出すことで、ゲイ問題を見てみぬふりをし、オープン・シークレット化する、ある種のホモフォビアに抵抗して、ゲイ・カルチャーの暗部を露呈させたといえるかもしれない。
 それは欲望から逃げていない。ホモフォビア的物語によって、世間のホモフォビアに抵抗する同毒療法あるいはショック療法とでもいえようか。
 私の作品も、それを狙っているといってもいい。欲望から逃げないこと。

*1:Mysterious Skin (2004) dir. by Gregg Araki.

*2:シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』を現代のアメリカのハイスクールに置き換えた翻案もの10 Things I Hate about You(1999 日本語のヴィデオ・タイトル『恋の空騒ぎ』)は、「阪急電車 急行は速い」のロゴをつけたTシャツをつけた女性が登場したり、ヒース・レジャー(『ブロックバック・マウンテン』『カサノヴァ』)やジュリア・スタイルズ(『オーメン』)が出演(ふたりがルーセンチオとじゃじゃ馬ケイトとのペア)、なかなか興味深い映画なのだが、そのなかにケイトの妹(「阪急電車」Tシャツ)をねらう高校生としてジョゼフ・ゴードン・レヴィットが出演。彼はこの映画でみるかぎり線が細すぎて、ネット上で、なぜこんな奴が主要人物なのかと苦言を呈されていたが、この『ミステリアス・スキン』にニール役ででている彼は、驚くほどたくましい、カリスマ的魅力をもつゲイの若者に変貌していて、ほんとうにやばいと思った。おじさん、惚れたね。